序章
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100<異常>

次の日の昼近くになって何か食べようと冷蔵庫を開けたらゴミ箱が視界に入って脅迫状のことを思い出し、昨日の夜は何にも起こらなかったことに思い至った。
こんなに脅迫状の出し甲斐のない相手も珍しいんじゃなかろうか。
「……洗濯でもするか」
一応金持ち学校なので制服とか、クリーニングに出せるようにはなっている。
けど下着やら何やらまでクリーニングに出したくないという生徒の数は多く、一応小さめの洗濯機は各部屋についている。
さすが金持ち学校だ。
普通、寮の洗濯機っつったら、共同をイメージするぞ。
「……高嶺も洗濯とかすんのか?」
ふと思いついた疑問に、若干緩い笑いが込み上げてくる。
いや、全部どさーっとクリーニングに出してそうな気も……。
でも、そこまで金持ちのボンボンって感じじゃなかったし、下着も全部って感覚はなさそうな……。
「いやいやいや、何考えてんの俺……」
どうでもいいこと真剣に悩んでどうすんだ。
「……電話すっかな」
何してんだろうか。
生徒会の仕事、土曜だし、そこまで激しく忙しいことないよな?
あ、でもゆっくり休みたいとか、あるか?
「あれ」
携帯の画面を開いて、メッセージの通知に気付く。
「…………」
2件だ。
光からと……高嶺。
「……」
うわ、俺、普通に高嶺の先に見てる……。うわああ。
いやだからっ、通知の順番的に開けやすい位置にあったからだしっ!
――今日夜会えるか? ちょっと外に用があって、帰りが10時前になるんだけどその後。それと甘いもの好きか?
「………………」
……その時間って、俺、確実に身の危険を感じるんですけど。
「だぁぁ」
違う! これは決して! ……そう! 危機意識!
「朝っぱらから……!」
いやもう昼近いけどっ。
よし光のメッセージを見ようそうしよう。
――なっちゃーん! 今日ご飯作るからね☆ 6時くらいでいい!? お腹すかして来てね! なんかリクエストある~d(。ゝωσ。)?
「……テンションたっけえ」
俺こんな顔文字初めて見た気がする。
「…………あー」
6時からなら、そんな被らないし、9時過ぎに解散的な方向に持ってけば問題ないよな。
「よし」
俺の夜の予定は満載だ。
どっちにもオーケーの返事を返し、光の方にはメニューは任せる、高嶺の方には甘いもの歓迎、の言葉を添える。
そういえば、食堂にチョコパフェのメニューってないよなぁ。
超食いてえ。
「まぁとりあえず、高嶺のお土産に期待、だ」
そういう話だろう、甘いものってのは。
とりあえず夜の予定が埋まったところで、俺は予定していた土曜日分の宿題を片付けることにした。
時刻は午後5時50分。
玄関を出て鍵を閉めて、携帯を確認したら約束の時間10分前で、早いかなぁと一瞬悩む。
館は違っても渡り廊下があるし、2分もかからない距離だ。
「……なんか買ってくか」
料理は要のがあるとして、その後の……デザートは俺、高嶺がなんか買ってくるらしいしなあ。菓子でいいか。……んー、飲み物の方が無難か?
「ま、適当でいいや」
休日のこの時間、寮内移動は校内程ではないにしろ、人とすれ違う可能性が高い。
だから、ちゃんと前髪と眼鏡はいつもの通りだ。
コンビニにも充分立ち寄れる標準装備である。
「くーっそ。エレベーター1階かぁ」
早々4階に止まってるなんてことはないけど、他の利用者が来る前にさっさと乗り込んでしまいたい俺としては待ち時間がうざすぎる。
あー、ほらもう、後ろに来たよ。しかも三年だろ? このフロア三年しかいないもんな。
めっちゃ上級生だし。じろじろ見られても、あからさまに嫌そうな態度取れないしっ。
「………………」
いいや。ここは知らぬ存ぜぬ。平然としてて空気になってた方が、もしかしたら例の転校生だとは気付かないかも……
「って、え?」
なんか、後ろの気配がやたら真後ろに近付いてきた気がして、空気になることも忘れて思わず振り返った。
「な……」
二人。すっげえ近い。
「……え、あの……うあッ!」
いきなり、何かに吹っ飛ばされた。
「っ、ぁ」
エレベーターのドアにぶつかって、そのまま床に崩れて、座り込んでしまう。
……腹が、すっげえ、痛いし、た、立てない……、なんだ、何が、起きて……?
「…………っ」
見上げると、目の前の二人は普通に立っている。
別に蹴ったとか殴ったとか、そういう行動の後の姿勢には見え……
「やっと出てきたな。佐倉夏樹」
バチバチと、目の前で火花みたいなのが走った。
「……な……ぁ」
スタンガン……?
「………………」
嘘だろ、おい……。
「どうだ? 痺れるだろ? 90万ボルト、なんとか社製って強力なやつ」
「な……、何……」
何が起きてるんだ?
ここ、日本だよな?
アメリカとかどっかのスラムじゃないよな? 映画の中じゃないよな? あれ、治安ってどうなってんの?
なんで普通の高校生がスタンガン持って人襲ってんだ?
頭おかしいんじゃないのか?
「ははは、頭真っ白か?」
スタンガンをバチバチと楽しそうに放電させながら言うそいつの後ろで、もう一人が携帯をかけている。
捕まえたとか何とか、そんな言葉が聞こえた。
「……っ、く」
やばい。これマジで逃げないとやばい。喧嘩とか言ってるレベルじゃない。めちゃめちゃ傷害事件に巻き込まれてる気がする……!
「あ、何? 立てちゃう? でも歩けないだろ、そんな足がくがくしてさあ。ちょっと浅かったかな」
壁を背に立つのが精一杯な体では、そいつが突き出したものは避けられなかった。
思いっきり腹に押し当てられる電極。でもスイッチを入れてないらしく、衝撃は来ない。
「……や、やめ」
「あははは」
「……、い、嫌だっ」
「怖がっちゃって。もっと激しく泣き叫んでくれたっていいよ? 根暗くんは悲鳴も控えめなの?」
「ちょ、まじ、んっ」
口を塞がれたのに一瞬遅れて、激痛が走った。
「ん゛んンぅうッ!!」
「ごめんなーぁ。要求しといてアレなんだけど。ここじゃあちょっと大声は困るんだわー。場所変えてから思いっきりお願いするし」
もうほんの少しも体を支えていられなくて、床に倒れこんだ。
「効くだろこれー。俺も試したんだけど、あはは1秒も耐えらんなかったし。でもゴメン、今完璧1秒越えたねー? これ痛い奴なのよすっごく。どう? 気に入った?」
「……ぁ、……う」
すげえ、痛い……。こんなの有り得ない……、タチが悪すぎる、頼むから素手にしてくれとか、思う。
体から汗がどっと噴き出して、耳に心臓の鼓動が激しく鳴り響いている。
なんだこの、リアル異常犯罪者みたいなノリは?
このままだと完全に、過呼吸とかフラッシュバックものだ。そんな情けないこと、もう嫌なのに……。
「おい、階段の方移動させんぞ。迎えが来る」
「おーけー。良かったねえ佐倉くん。場所移せるってさ」
「……っ」
ど、どうしたらいいんだ? これ喧嘩売られたってレベルじゃないしっ、あ、相手しないで逃げるとか、そんな手段が残されてない場合は……。
「はーい、ちょっと持ち上げるよー」
床にへばっていた俺を、スタンガン野郎は脇の下に手を差し入れて、簡単に抱え上げた。抵抗しようにも、手足が重くて動かない。
「見た目よりかっるいねえ。あはは、俺らのリンチ耐えられんのかなー?」
「……っは、はな、せ」
言葉も上手く喋れない。
「ごめんなー。佐倉くんのこと気に入らないって奴がいてさー。前まではこんなことしたら会長とか面倒そうだから手出しすんのは控えてたんだけどー。なんか、そろそろ会長の熱も冷めたっぽいからー。要望に応えて、ねー」
「…………っな、んで……んな」
熱が冷めたなんてっ、勝手な噂だし……! だってアイツ、その噂で俺を不安にさせてないかって自分の方が不安に……、今日だって会いたいって連絡が……!
「まぁ、冷めたっつってもどれくらいのモノか、確認しようと思ってさ。昨日の手紙読んだっしょ? でも会長に頼らなかったんだ? それとも、かわいそーに、頼ったのに無視されちゃった? かるーく見張ってたんだけど、会長も来なかったし、佐倉君も会長のとこ行かなかったよね。君の部屋の辺りに人が巡回することもなかったみたいだし?」
「……は」
それ、……それ、俺がくしゃっと丸めて捨てた、あの馬鹿らしい手紙!?
「それともあの手紙無視した? 気が強いのか、会長の好意に甘えたくなかったのか。まぁどっちにしろ、それならそれで、泣いて御免なさいって言ってる姿でも撮っとけば、誰にも話したくならないよな? 意味分かる?」
「…………」
そ、そんなことを探る目的だったとか、気付くわけないし……!
「ってなわけで、我慢しないでさっさと泣き叫んどいた方が、早く終わるかもね? あぁでも俺、結構ドSだから、余計痛めつけたくなるかも」
そいつは凶器を持つのとは反対の手で俺の頭を撫でてきた。
エレベーターホールからは死角になる、半分防火扉の閉められた階段の影に降ろされる。
建物の反対側の階段は大きくて隠れようがないけど、エレベーター側の階段は非常階段的な扱いで、防火扉もいつも半分閉まって隠れやすくなっている。
写真を撮られたのもそこだったのに、こいつらが隠れていたことに気付かなかったなんて、ほんと間抜けだ。
「あはは。今のうちに縛っちゃおーっと」
完全に動けないわけじゃなかったものの、箸も持てなさそうな手じゃ抵抗のしようがなかった。
「お前、喋りすぎだぞ」
「えー、いーじゃん、別にー。怖がらせてんのー。結構不気味じゃない、俺ー? 異常っぽくてー。いや、ぽいっつーか、まんまかなぁ」
あははと笑ってそいつは電極を近付けてきた。
「……ッ」
耳元でバチバチと音を立てられて、体が竦む。
服の上からでもあんなに痛かったのに、直接肌に当てられたらと思うと、鳥肌がたった。



