104<やくそく>

 いやだいやだいやだ、消えたらいやだ!
「あァぁあアっアッ」
 必死にいっぱいにしてるのに、真っ白になって、高嶺が……!!
 俺の中から消えるなんてそれだけは耐えられない!
 中に入れられる度に、消されそうで怖くて仕方ないの、どうしたらいいっ?
「ふっ、うぅっ、あ!」
 最後の砦なんだ、好き勝手されて、もう碌に抵抗もできなくて、薬で無理矢理いいようにされて、それでもそれだけの塊になりたくなくて、砕けそうな気持ちを必死に保ってるんだ、お前のこと考えて!
 だから消えるなよ高嶺……!!
 お前が俺の心守ってくれないと、気が変になる!!

「あははははっ、やっぱクスリ飲ませすぎたんじゃないの?」
「もともと淫乱なんじゃねえ?」
「おーい、まだ? そろそろ俺も順番頼むわ」
「ははっ、もうすこし、な……っ」
「ふぅう゛ッ、ぅあ゛ア!」
 うで、腕が、熱い、い、いたっ、イタイっ!
「あーあー、腕血ぃ出てるぞ」
「もう外しといていいだろ、完全に力入ってねえわ」
「おし、じゃあ俺握ってもらお」

 頭がガンガンする、上も下も、右も左も全部ぐちゃぐちゃだ。
 こうなってから、どれくらい経ったんだろう。
 高嶺は、いつ帰るって言ってた?
 あぁでも、俺がどこにいるか、あいつ知らないんじゃないの……。
 なんか、だって、あはは、俺も分からないのに。
「や……ッ、あ゛、うぅ」
 いや、ちがう、だめだ。
 帰ってきたらダメだって。こんなとこ見られたら、だめだろう。
 無理矢理も、薬も、ぜんぶ言い訳だし、こんなになって、もう何回イったか分からないなんて、嫌われないわけない。

「ンあ! あぁアっ」
「おっと、そのバイブいいなぁ。すごい締まったよ今」
「だろ? すげぇビクンってなったぜ」
「さっきのテープは? 付けといてやってよ。スイッチ強で」
「わーかってるってー」
「ぃイ゛っ、アっ!」
 もうないってくらい限界なのに、嫌なとこにまた増えた。
 しかも、ぐるぐる巻かれて、痛い。

「あははっ、お前それじゃ佐倉ちゃんイけないじゃん、かわいそうなことしてやんなよっ」
「何言ってんだよ、もっと締まって気持ちいいくせに」
「確かにぃー」
「結構イったもんなー? 休憩にちょうどいいよなー?」
 耳元で何か声が聞こえる。
 なんて言ってるかなんて、難しいことを言われても、全然理解できない。
「佐倉ちゃーん? 聞こえてるかー?」
「ぁ……うぁ、や、めぁ」
「はは、目ぇ虚ろだ」
「ぅくっ、ア、イっ」
「こっち向きな。口開けろ」
「う……ぁぐ」
 もう、もう、これ以上薬なんか飲ませて、どうする気だよ、ホントに死ぬ、無理だ。

「そろそろ噛み付く気力もねえだろ」
「う……あ」
 血の気が、ひいた。
「口開けろっつってんだよ」
 目の前に出されたものは、薬とかじゃなくて、なかったことに、見なかったことにしたい、くらいの。
「ぅ、ぐ」
 口を開けたら突っ込まれることくらい、いくらボロボロでも、目の前に突き出されたら解る。
 だから懸命に歯を食いしばるのに、俺の意思はもう随分と体をコントロールなんてできなくなっていた。

「あ゛ッ、ぅァあっ」
 突き上げられて、無理矢理声を押し出される。
 開いてしまった口に指を突っ込まれて顎を掴まれ、閉じれなくされて、もうどうしていいか分からなくなった。
「歯ぁたてんなよっ」
「ぁぐッ、う゛、ぐっ」
 夢だ。こんなのは、悪い、悪い、夢だ。現実じゃない。
「は、あー、この顔だけでイけそうだわ俺」
「ふう゛ッ、ん゛っ、ムうッ」
 苦しい、息が吸えない、涙がぼろぼろ出てくる。
「……っ、ッ」
 喉の奥を押されて戻しそうになるのが怖い、そんなことになったら窒息する……誰か、助けて……。
 あぁ、でも我慢しなきゃ……。

「ハ、ぐ……っ、う、ぇっ」
 たすけてもらうのは、俺じゃない。
「うっ……うぇっ、っぐ」
 おれは、助からなくていいんだ。
 頑丈に、できてるし、少しくらい、無理されても、死なない。
 だから誰も呼ばない。
 満足するまで、耐えればいいんだ。
 さいしょ、俺だけ見てた罰だ。
 目を逸らさなければ、何もかも、違ったかもしれないのに。

「ぅ……ぇほっ、げほっ、っはぁ」
「ほら、ぐったりしてんじゃねえ。まだ終わりじゃねぇぞ」
「ぅぐっ、う゛っ」
 あぁ、でも、何か、また間違えてる気がする……。
 結局、約束は、破られたんじゃなかったっけ……?
 あの時、まっくらになって、信じられなくて、死にたいと思ったのは、夢だったのかな。
 あれ……? あの時、って、どの時だ……?
「……っ、ゥん゛っ」
 いつ……、夢なら、いつ、見た夢だろう。ここは、どこなんだ。あれから、白い……部屋、……病院? そうだ、おれだけ……、……。それも、夢なら、……今度は、間違えないから、だから……。

「……はっ、はぁっ」
 気が付いたら、空気がまともに吸えるようになっていた。
「うわー、けっこー酷くしちゃったなー」
「おーっと、カメラバッテリー切れてっし」
 動く気力はなかったけれど、圧し掛かられてた重みが消えて、辛いのが楽になっている。
 これは、何なんだろう。
 なにが現実で、なにが夢で……、ホントはどうなって……、あぁ、なんで俺、こんな何もわからないんだ……
「いやいや、わりと夢中になったなー」
「そろそろ切り上げんだろ?」
「あー、これ以上やったら救急車もんだしな」

 頭がいたい。体がふわふわする。あぁ、ぐらぐらかもしれない。
 どうしたんだろう、どこに連れてかれるんだろう。
 外? なんで、外……、いやだ、また、やくそく破ったって、言われたら……。
「やめ……、おれ、が……」
「あー? 気が付いたー?」
「ならこの辺でいいか?」
「そうだなー」
 地面に下ろされる。木の根元。見上げた先の顔は笑っていた。
「送ってってあげたいけどさー。俺らが抱えてくと目立つからー。噂、なりたくないだろ?」
「会長にも誰にも言わない方がいいぞ? 動画に撮っちゃったからな」
「これに懲りたらもっと空気読んで、特別扱いは辞退しな。もっと恨み買うぜ?」
「じゃーしばらく休んだら、自分で部屋に戻んな」
 笑い声が聞こえる。
 遠ざかっていって、何をどうしたらいいのかますます分からなくなった。

「ゆぅ、か……」
 へや、って……何の、ことだろう……。家は、とおいし……、あの、地下のこと……? もどれって言うなら……、なんで外に出したり……
「……あぁ、あ」
 そんな。……外に出たりしたら、逃げたって思われたら、やくそくを破ったって思われる……。だめだ、そんなの。
 もどらないと。戻らないといけないのに……、方向が分からない……!
「いやだ……! やめて! ちがう……!」
 立って、走ろうとするのに、すぐに倒れてしまう。歩けない、走れない。
「ちがう……!! 逃げてない! ……だれか!! やめて!!」
 どっちに、どっちに向かって行けば、どっちに向かって叫べば。
 手遅れになる前に、伝えないと、あの人に……!

「なんでっ、ちがうのに……!! ゆうか……っ!」
 ひっしに立ち上がったあとで、体を支えきれなくてよろめいた、直後。
「佐倉ちゃん!!」
 耳元で声。
 倒れていない、自分の体。……抱きとめられてる。……誰?
「落ち着いて! 何があったんだ!? どうしてこんなとこにっ」
「は、はなしっ、やめっ」
 知らない人だ。
 うしろの方に、もう二人いる。
 大声が頭にぐるぐる響いて、苦しい。
「佐倉ちゃんっ、大丈夫だ! 落ち着いて!」
「いやだ……っ、はな、しっ」
「分かった離す! 離すから! 座ってからなっ? 落ち着いて、そっと座って……、離す、離すよ?」

「…………っ」
「……お、落ち着いた?」
「…………だ、れ」
 こんな話し方をする奴なんて、いなかったと思う。
「ちょ、佐倉ちゃん……?」
「なんで……、名前……」
「なに、本気で言ってんの?」
 手を伸ばされて、とっさに体が引いた。
「佐倉ちゃん……もしかして、乱暴……」
「い、いやだ……、さわ、さわん、な」
 これ以上ぐちゃぐちゃにされたら、動けなくなる。戻らなきゃいけないのに。
「ごめん佐倉ちゃん、ほっとけない。連れて帰る。明るいところじゃないと君の様子が分からない」

 いいなんて言ってないのに抱き上げられて、暴れる力さえ残ってないのに驚いた。
「どっちか一人、丸山先生呼んできて。俺の部屋に運ぶから」
「やめっ、おろせ……っ」
「なっちゃんっ」
「光、夏樹に付いてろ、俺が呼んでくる」
「う、うん……」
 なんで、なんでみんな、俺の名前を知ってるんだろう。
「おろ、おろせっ、も、戻んないと……っ」
「佐倉ちゃん落ち着いて。俺の顔思い出してよ。大丈夫だから。普段忘れてることならまた忘れていいから。もう大丈夫、忘れていいんだ」
「…………わ、わすれ、て?」
「今度は離さないよ。前はそのまま行かせてすごく後悔した。だから今日は、君が嫌って言っても離さない。連れて帰って丸ちゃんに診てもらう」
「………………」
 さっきまでの人たちとは違う言葉を使う。気持ちが、怖いって言ってない。

「あ……」
 思い、出す……、どっかで、会ったことが……、どっかって……あぁ、ここ、学校だっけ……、診てもらう……丸ちゃん……、病院の……経過観察……先生……。
「……う、うぅ」
 先生に、事故のこと……話せって迫ったって……熱い、手のひらの……、態度でかいのに……変なとこで、ヘタレな……、生徒会長……
「……た、かみ、ね……」
「…………大丈夫、すぐ帰るって言ってた」
「あ……ぁ……」
 たかみねの、親友で……この前、ケンカした……、俺のこと、好きだとか、変なこと言う……いつも抱え込む、副かいちょ……
「み……やの、せん、ぱ……」
「そうそう。思い出した? 良かった良かった」
「う、ぅ」
「探したんだよー? 佐倉ちゃんってちゃんといい友達いるんじゃん。二人ともすっごい探してたし。この前ぼろぼろ泣くから、俺、親衛隊のせいで学校で孤立してんのかと心配してたんだよ」
 ともだち……友達、二人……光と、要……、そういや、メシに誘われて……結局。
「……ごめ、せっかく……さそって、くれた……の、に……」
 ふうっと意識が遠のいて、言葉の最後の方が消え入ってしまったことに気付いたあと、真っ暗になった。