序章
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107<代わり>

起きたら昼をまわっていて、俺はとりあえず高嶺の姿を探した。
「……おーい」
なんたってここは高嶺の部屋だ。
「えーっと」
あの後、俺が何をどうしていいのか分からなくて動揺しまくってる間に、光と要は空気を読んだつもりか、人数が多いとなっちゃんが落ち着かないからとか言って帰ってしまった。
そりゃ確かに落ち着かなかったけど、なんか先延ばしになっただけな気がする。
「あー」
それから、部屋に帰ると言ったものの残った三人に猛反対され、結果高嶺の部屋に泊まることになった。
俺の交際宣言を受けた丸山先生の譲歩案だ。宮野先輩は何も言わなかった。でも何も言わなかったけれど、何も思ってないのとは違うくて、俺はそれに気付かないフリをするので精一杯だった。
てか、丸山先生も俺と高嶺が付き合ってるとはハッキリ知らなかったらしい。かなり感慨深げに驚かれた気がする。
「ちょ、たかみね……」
ベッドから降りようとして、鈍い痛みに体が強張る。
「……う」
動けないんですが……。腰が、……痛すぎて。
「あー」
俺、高嶺とだってまだ一回しかやったことないのに。
あの時も二日寝込んだけど、今のこれはそれ以上のダメージ具合な気がする。
「あたりまえだなー」
だって高嶺じゃないし。
無理矢理な上に複数だ。言葉にするとなんか落ち込むけど……、いわゆるレイプってやつなんだろう。
比べる方がどうかしてる。
「くそ……っ、男だと思って無茶苦茶やりやがって……」
俺が女だったら間違いなく骨の一本くらいは折れてそうな無茶をされたと思う。
女の子だったら妊娠とか問題は深刻だし、普通に引きこもりとかする勢いのショックだ。女じゃなかった俺は、本当に不幸中の幸いだよな。とにかく妊娠は有り得ないし。
あぁ、昨日のこと思い出したら気分悪くなってきた。
「……くそ、あぁもうっ」
何だろう、夜に目が覚めたときは平気なように思ったのに。
てか、昨日より痛い。
腰とか尻とかすげえ痛い。縛られた手首も、叫びすぎた喉も、痛い。頭も痛いのは泣きすぎたせいか。
「……ち、っきしょ」
あぁ、俺、みっともなく泣き叫んだんだ。情けない、情けなさすぎて消えたくなる。
好き勝手されてろくに反撃もできず、されるがまま声あげて涙流して。馬鹿じゃないのか。男だろ、女の子じゃないじゃん俺、なんでもっと根性入れてプライド守らなかったんだ。くそ、くそっ。
「夏樹っ? 起きたのか?」
枕をぼすぼすやってたら、部屋の入り口から声がして、俺は手を止めて顔をあげた。
「……あ、……おはよ」
「お、おぅ。おはよう」
高嶺は眉間にしわを寄せながら答えて部屋に入ってきた。
高嶺の部屋、これで二度目だな。
「具合は? 腹は減ってるか?」
「え……、あ……どうだろう」
自分でも良く分からない。腹は減ってる気がするが、食べたいとはあまり思わないような……。
首を捻っていたら、高嶺が手を伸ばしてくる。
「熱は?」
おでこに当てられた手が、高嶺にしてはなんか、あんまり熱くない。
「ん……?」
で、次の瞬間、止める間もなく高嶺の顔が至近距離にあった。
「ぅわ」
でこ同士で熱計るって何だ!? ドラマか!? 俺たちは親子か!?
「ちょっとあるな。薬持ってくるからちょっと待ってろ。ヨーグルト食べれるか?」
「え……、何味?」
思わず聞いた。
「イチゴ。果肉入り」
「食べる」
「よし待ってろ」
プレーンって酸っぱすぎてあんまりヨーグルトとしては得意じゃないけど、果物入りはわりと好きだ。
高嶺がそれと知って買ってきてくれたのかは分かんなかったけど、たぶんそうなんだろう。甘いもの歓迎ってメール返したから、どっちかっつうと甘い方が無難だろうと思ったに違いない。
「……お前、なんていい奴」
布団に顔を埋めながら呟いた。
「………………」
忘れよう。
「………………はぁ」
忘れるんだ。
……あんなの、どうってことない。
あんなことが俺の何かに影響するわけがないんだ。
今まで通り、何も変わらない。あいつらは失敗した。
あんな方法で俺を思い通りにできると思ったなんて、大間違いだったってことを証明してやるんだ。
俺にとっては何もなかったに等しいくらいの些事だ。そう、些事。些細な事。
「果肉20パーセント増量中らしいぞ。アイスとかプリンもあるからな。食べたかったら言えよ」
ヨーグルトと水をトレイに乗せた高嶺が戻ってきた。
「………………」
「なんだよ?」
「……ホントにお前、俺様っぷりドコ行ったんだ?」
「は?」
「高嶺の部屋にヨーグルトとプリンとアイスがあるなんてきっと誰も想像しねえよ。しかも運んでくれるとか」
「……お前な、自分を誰だと思ってんだよ」
高嶺は呆れたように言ってベッドの端に腰掛けた。
トレイに乗っかった錠剤が目に映る。違う種類のが、3錠。
「風邪薬?」
「違う。丸山先生からもらったやつ。解熱剤と鎮痛剤と、……安定剤」
「……何その最後の怪しい響き」
「過呼吸起こしたろ。起きにくくする奴だってさ」
「聞いていい?」
「ん?」
「それ、精神安定剤?」
「………………」
沈黙は、おおむね回答になる。
「いやだ、絶対飲まない。そんなの飲まない。俺そんなの要らない。普通だし、おかしくなんかない。いやだ」
「夏樹」
「だっておかしいだろっ? なんでそんなの要るんだよ? 俺別に何ともないし! あんなの、別に気にしてないしっ、大したことじゃ……っ」
「俺には大したことだよ」
「…………っ」
高嶺の声が嫌に落ち着いているから、二の句が継げなくなった。
「大したことだ。……我慢できない」
「…………たか」
「お前が何でもないって言い張っても、俺にはそうじゃない。……だから、辛いときは言ってくれ。独りでいられると、俺が泣きたくなってくる」
「………………」
「薬、嫌なら飲まなくていいから」
「…………うん」
頭に手を置かれて、俺はちょっと俯いた。
「……お前がなってくれるだろ。薬の代わり」
「………………」
高嶺は一瞬手を止めて、それからぽんぽんと撫でてきた。
「ああ。なる」



