序章
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114<抵抗>

そっと目を手のひらに覆われた。
それからまたキスが降ってくる。
視界を覆われるついでに額ごとしっかり抑えられているから、強制的に受け入れる一方になる。
それでも高嶺のキスは、逃げたくなるような激しさは全然なかった。
「……毎回、お前凄い誘い方するよな」
高嶺はキスをやめて、俺の上でそんな風に言った。
視界は覆われたまま、声だけが聞こえる。
「そうか?」
「この前はめちゃくちゃにしろっつってな」
「あぁ」
そういえば、そんな経緯で事に至った気がする……。
「俺の立つ瀬がないんだが」
「たってくれなきゃ困んだろ」
「どっちの意味だ」
「……どっちでもいいよ、やらしいな」
「今からセックスしようって奴が何言ってる」
言いながら高嶺は上に覆いかぶさってきた。
「……ふは、こっちはたってる」
「誰のせいだよ、笑うな」
「おぅ、責任とらせていいぜ」
「お前……」
高嶺は俺の怪我が心配なのか、前に進む決心がなかなかつかないらしい。生徒会長がこんなにヘタレだなんて、俺しか知らないんじゃないだろか。
生徒会のメンバーの前でだってもうちょっとカッコつけてるっぽいし。
「高嶺、なんも考えないでいいよ、俺は体より心が救われたい」
「朝までずっと抱きしめててやるよ」
「それも。……これも。両方」
我ながら、さっきから結構なセリフを吐いていると思ったけれど、目元を覆い隠されているからか、思ったことが素直に言えた。
「貪欲だな……」
高嶺は呟いてまたキスを落としてきた。
「………………」
長くて深いキスだ。
でもなんか、さっきから、高嶺の舌は行儀が良すぎて、なんだか返って恥ずかしい気がする。
「……ん、っか、みね……、ちょ」
思わずツッコミを入れようと思ったら、舌は口元を辿ってゆっくり首の方へ下りていった。
「ぅ……」
やる決心がついたのかと思って、高嶺に身を任せようとするのに、どうも居たたまれない感じがする。
「ぁ……」
感覚の波が、声を我慢できるかできないかの境目辺りでざわついている。
微妙に残された理性が平常心を保とうとしている中途半端な頑張り。
いっそのこと、理性から根こそぎ掬い取ってくれれば楽になれるのに。
「は……、ぅ、……高嶺……っ、ちょ、分かっててやってんだろ……っ」
「何が?」
「っふ、ぅ」
鎖骨の辺りにある傷跡のひとつに舌を這わされたのだと気が付いた。
いつもはそんなこと、気付く余裕すらないのに。
「……我がまま、言ってんのは……みとめる、けどっ」
「どうした?」
高嶺は首筋を舐めるのをやめて、目を覆っていた手を離し、額をこつんと合わせてきた。至近距離に高嶺の綺麗な目。けど急に胸に刺激を感じて、それどころじゃなくなってしまう。ぎゅっと目を閉じたら高嶺の目は視界から消えた。
「ぁあ、も……っ、じっとしてらんねぇ……っ」
誘ったのは俺だけど、俺だけどさ!
「なんだよ?」
「だってっ」
具体的にこんなやり方だとは想像してなかった。
高嶺がこんなにスローペースなのは初めてなんだ。
恥ずかしすぎて、抵抗したくなる。
押し流してくれた方が、まだもうちょっと羞恥心に対して弁解の余地もあるのに。
「……あぁ、も、……こんな、恥ずかしーことされて……、じっとしてる自分が嫌だ……」
「俺に恥ずかしいことされるの、好きだろ?」
「好きじゃないっ」
「おーい、今さら?」
「ちが、違うって! 俺が好きなのはっ、こういう……っ、こういうことで、確認できる気持ちとかっ、そういうの……、愛……とか、そうじゃん……高嶺が愛してるって言った……! そういうの、確かめあえるからっ! 絶対、恥ずかしいのが好きなんじゃない……っ、愛を確かめ合う過程がっ、たまたま恥ずかしいコトで構成されてるだけだ……!」
「………………」
高嶺は一瞬沈黙して、それから、眉間にしわを寄せた。
「か、可愛過ぎる……」
「はぁっ!?」
「なんだ、何なんだそれ……、愛を確かめ合いたいから、恥ずかしいこと好きじゃないけど一生懸命我慢してんの?」
「え? あ、う、うん……」
自分はそう言ったんだよな? って思い返しながら頷いた。
「……う……っわ、くそ、死を覚悟しそうだ……」
「えっ」
「俺の心臓はお前の煽り文句にいつか発作を起こすぞ……」
「な、なんっ」
「文字通り殺し文句になるな、心臓強くしとかないと……」
「ななな、何言ってんだよっ」
結局俺の訴えは真面目に検討されてない気がする。
「なぁ、お前、もしかして焦らされるのが苦手?」
「得意な奴いんのか!?」
「得意っつうか、好きな奴はいるだろ。ドMとか」
「俺はMじゃねえっ」
「あぁ、そうなの?」
「おっまえ」
今まで俺を何だと思ってたんだよ!
「焦らしてるつもりはねえよ。でも今日ばっかりは、丁寧にしないと負担になるだろ」
「そ、れは……っ、分かってるけどっ」
「けど何だ」
高嶺の手が胸元で止まっている。
「いっ、居たたまれなくてっ、暴れそうになる……っ」
そうだ。があーって吠えて、何やってんだ自分とツッコミを入れて我に返りそうになる。
「暴れるって……結局、嫌なのか?」
「ちがっ、あぁ、お前はもう……! 俺の口から言わせたいんだな!?」
「何をだよ」
「縛ってくれ!!」
叫んでしまった。
「ゆっくり丁寧なんてっ、絶対耐えられないから! 理性とか全部吹っ飛ばしてくんないと俺は駄目だ! 途中で恥ずかしすぎてやめたくなってくる!」
「………………」
あー高嶺が無言だよ!
「違うでも、やめたいんじゃない……! 高嶺とはしたい! けど感じるものは感じるしっ、理性残ってるとそんな自分もハッキリ自覚すんじゃんか! そんで抵抗しないとかっ、どんだけ自分淫乱なんだとか死にたくなってくるから……! だから理由っ、抵抗したくてもできない理由が最初からあったら、俺自分に言い訳ができる……!」
「…………あ、あー……あぁ」
高嶺は何かを思い悩むような声を絞り出した。
「あー……もー……」
「ごごご、ごめん……」
自分でもあんまりな事を言った自覚はある。
途中で抵抗しそうだから縛ってくれなんて、恋人に言われたら相当ショックかもしれない……。
でも。
「セックス自体は縛ってくれないと抵抗しそうになるくらい恥ずかしいのに、それでも俺とならしたいってことか」
「………………」
高嶺は前向きな方向で受け取ってくれたらしい。
「そ……そう」
高嶺に要約されると、自分の要求が、もっと激しく恥ずかしい気がしてきた。
「したいならしてくれていい。恥ずかしがってるお前は可愛くて好きだ」
「はぁあ!?」
「照れ隠しの抵抗なんて、今さらだろうが。お前に何回喚きたてられてると思ってんだ」
「………………」
今度は俺が無言になる番だ。
「今さらだけど、抵抗したら俺が傷付くとか思ったんだろう? 大丈夫だ、可愛いから」
「…………」
「それとも、やっぱり今日はやめとくか?」
「い、いやっ、やめない……っ」
あぁ、俺は棺おけに片足突っ込むような事を言ったぞ、今!
棺おけって表現は酷いかも知れないけど……、恥ずかしくて死にそうなんだから棺おけでもあながち間違いじゃないと思う。
「じゃあ、頑張って恥ずかしいのに耐えるしかないな。今日はゆっくり丁寧にする。縛るなんてもっての他だ。手首の傷が悪化する」
「………………」
「忘れられない思い出で上書きしてやるよ。そうだろ?」
「…………」
「ま、傷が治ったら、存分に縛ってやるから。風呂場でした時も、まんざらでもなさそうだったしな。約束だ」
「……ぃ」
いらねえそんな約束……!!
そう言おうとしたのに、高嶺に唇を塞がれたせいで言葉は出なかった。



