117<堂々>

「改めて」
 少し緊張したような面持ちの光と要を前にして、俺はストレートに言った。
「……俺は高嶺と、付き合ってます」
「だっ」
 光が何か声を漏らし、びくりと肩を震わせる。
 高嶺の部屋とは違う、一番最初に俺が泊めてもらった仕事部屋の中。高嶺は三人でゆっくり話せと言って今ここにはいない。
 とりあえず病み上がりというか怪我上がりのような俺と、要に促された光がベッドに腰掛けている。要は部屋にひとつある椅子に座っていた。
 まさか直前まで高嶺と何だかんだやってた部屋で話をするわけにもいかない。

「やっぱり、……そうだよね。僕びっくりしちゃって、あれからずっと、夢だったんじゃないかって何度も……」
「ごめんな……」
 おろおろと落ち着かない様子の光。
 それは俺の立場だと思うんですが。
「まー、しっかり会長の部屋で寝泊りしてるしなぁ……。もう疑いようもないか」
「い、いや普段はそんな、自分の部屋で寝てるぞ」
 要ののんびりした声に俺は慌てて補足を入れる。
「えっ、なっちゃんっ」
 そしたら突然光が驚いたような声を上げた。
「そそそ、そういう言い訳の仕方って、もしかして想像しちゃうんだけど、え、もしかしてもしかして……。もう寝た?」
「ねっ」
 大きく目を見開いて固まっている光。
 そんなの俺が固まりたい。

「なんでっ、今の言い訳のどこにそういう想像の要素が!?」
「え、だってそういう言い方だったじゃないっ」
「どこがだよ!」
「えぇっ、だって」
「夏樹、光はわりと勘で物を判断するから。具体的に説明しろったって無理だ」
「あ、あー……、か、勘……?」
「根拠は説明しづらいけど、当たる」
「へ、へえ」
「否定しないってことは、そうなんだな」
「いやちょっ、ななな、なんでそんな苛めるんだよっ」
「いやー! なっちゃんやっぱ否定しないしーっ」
「だって!」
 決めたんだ、堂々とするって。ハッキリ言うって。

「こ、この際っ、光がいらない心配してそうだから言うけど! お、俺の初めては高嶺だからな! 絶対にこの前のじゃないぞ!」
「なっ、なっちゃん……!!」
 ぶったまげたと顔に書いてあるような表情で、光は硬直した。
「あっ、でも男の誇りに懸けて、女の子とも全く童貞とかじゃないからな!」
「ま、まま、全くって……なにその微妙なの……」
「女の子だって初めては大変だろ!」
「……リタイアだったんだ」
「おまっ、光! せっかく言葉濁したのにストレートに言うんじゃねえ!」
「いやだぁー、なっちゃんが可愛いぃ~」
「なんっ」

 例のごとく光の妄想と暴走が始まって、俺はツッコミを入れるので精一杯になる。要は慣れたように呆れ顔だ。
 なんか、心配したより普通にいつも通りだよな。
「いやー、いやー、ちょっと想像しちゃうっ、なっちゃんが会長とぉー!」
「光てめぇ自分の時は俺に想像するなとかっつっといて!」
「だってだって! うわあぁ、なんかちょっとなっちゃん押し倒してみたいかもー!」
「なっ」
「こら光、そういう発言は俺が隣にいない時にしろ」
「だってぇ」
「だってじゃねえ!」
「あはは、うわぁ僕、なんか今すっごい楽しいー」
「ひーかーるぅー……」
 俺が恨めしそうな声を出すと、光は言葉通り、楽しそうに笑った。

「はー、笑いすぎてお腹がいたいぃ」
「自業自得だ」
「うふふ、でもなっちゃん元気そうで良かった。なんかいつも通りだね」
「い、いつも俺はいつも通りだよ」
「だってこの前すごい気まずいですーって顔してたもん」
「あ、はは」
「会長とのこと吹っ切れたんだな?」
「お。おぅ……。一応、学校でも、隠すのやめようかって、思ってる」
「え嘘ホント!?」
 光の質問に、俺は黙って頷いて肯定の意を示した。
「うわあー……、反応が凄そうだよね……。うん、でもいいかも」
「え、いいかな?」
「うん。付き合ってるならハッキリ言った方が、なっちゃんの傍には会長がいるって思わせることになるし、いいと思うよ」
「そ、そうか、そうだよな……」
 高嶺が俺に飽きたって思われたから、今回みたいなことになったんだし。

「夏樹、お前いつぐらいに出て来れそうだ?」
「えっ、あぁいやー、どうかな……」
 さっきの行為のおかげで、状態はちょっとばかし悪化した気はする。今立ち上がれと言われても、相当ふらふらしそうだ。
「いや早く出て来いとかそういうんじゃなくてさ、出てこようと思ったら一人で登校しないで俺たちに連絡くれってこと。朝迎えに行くからさ」
「要……」
 なんて優しい奴なんだ。
「……あ、いや、でも」
「なんだ?」
「俺……、高嶺と……一緒に登校するって、約束……」
 さっき風呂場でさ!

「………………あはは、そうか!」
 要は笑った。
「ははははは、そうかそうか! 隠さないんだもんな! あはは! それがいい、そうだ、それに気付かなかった、お節介だった」
 要はくつくつ笑って肩を震わせている。
「………………」
「なっちゃぁーん、ラブラブだねえ」
「おっ、お前らに言われたくないっ」
「うふふふー、僕らもラブラブだけど、なっちゃんたちもラブラブ。いいよねえ、愛っ」
「光っ」
「夏樹、でも登校する時は教えてくれよ。会長との登校風景ちゃんとこの目で見たいから」
「お前らは二人してっ! 俺をからかいに来たのか!」
「とんでもない。ノートと課題のプリント届けに来たんだよ」
 そう言って要は傍に置いてあった持参の手提げ鞄からクリアファイルを取り出した。

「ノートは俺のコピーな。課題は数学と英語。期限はそれぞれ書いてあるから」
「うっわぁ、さんきゅう!」
「あと、金曜日に英単語の小テストするらしいぞ」
「げっ」
 有り難くない情報だけど、教えてくれたのはとっても有り難い。
「まぁそれまでに出てこれたらの話な」
「そ、そうだな」
 あぁ、教科書部屋だし、取りに帰らなきゃな……。っていうか、俺はいつまで高嶺の部屋に世話になるつもりなんだ。
 しばらくはよくても、いつかは自分の部屋帰らないと。

「いやそれにしても……、夏樹がなあ……、ほんとに会長と付き合ってるって……あんなに冗談じゃないって言ってたのに」
「あ、あー……はは」
「いつからなんだ?」
「………………え、えーっと……。……あー、……それ、言わなきゃ駄目かな……」
「えぇ何なにナニ!? 言いたくないって何っ?」
 光が喰いついてくる。
「……告白されて2週間くらいだもんな。それなのに最後までしたってことは、数日前からとかの話じゃないわけだ」
「…………あー、まぁ」
「何なのなっちゃん! 何がどうなって、いつから付き合ってるの!? どうして好きになったの!?」
「……いや、……いや、そりゃ、……なったもんは、しょうがねえし……」
「うわーっ、なんかカッコイイこと言ってるよこの人!」
 光のハイテンションは途切れる兆しがないらしい。

「…………あー、あぁー」
 くっそぉ、正直に堂々とするんだろ、俺っ。
「いっ、いぃぃいいっ」
「い?」
「一日だ!」
 うああぁ言っちまった……っ!
「一日? って、え?」
「こ、こここ告白されて……っ、一日っ」
 何度も言わせんじゃねえー!
「……えっ、……えッ!?」
「一日って夏樹っ、次の日にはOKしたってことか!?」
「…………っ」
 もう声を絞り出す余裕がなくて、首を縦に一回大きく振った。

「「えええええーっ!!!」」
 二人の驚きが部屋中に響き渡った。