13<勧誘>

「彼らの中にね、すごく歌に自信のある子がいるみたいなんだ。それで俺に、バンドのボーカルとして使ってくれって頼み込んできてね」
 にこにこと笑顔で話す瑠璃川先輩は、名前のごとく宝石のようにキラキラ光り輝いている。それはもう、なんか胡散臭いぐらいに。
 いや、ごめんなさい。

「毎回毎回しつこくて。他のメンバーと違って俺がいつもにこにこしてるもんだから、押せばどうにかなると思ってるんだろうな……」
「……確か、バンドメンバーの一人が留学したんですよね? ボーカルの方だったんですか……」
「そうそう。おかげでボーカルがいなくなっちゃって、歌自慢がバンド復活に協力させてくださいって押しかけてくるんだよ」
 他人事のように笑って話す瑠璃川先輩の様子を見ていると、あんまり大変そうな気がしなくなってくる。俺が出てかなくても、もしかして、この人ならかるーくあしらえたんじゃなかろうか。
 いや、絶対そうだ。

「歌の上手さってほんと、みんな勘違いしやすいからねえ。カラオケでちょっと上手いって褒められればみんなその気になるし」
「…………カラオケは素人の歌でも上手く聞こえる音響になってますもんね」
「そうそう、レコーディングに使える上手さとはまた別……って、君結構分かる人なんだね?」
「えっ、あ、いや……」
 夕香の仕事の関係でそういう事を身にしみて分かったことがあっただけだけど、そんなこと、ここでぽろっと言うわけにはいかない。

「なんか、そういう話を聞いたことがあって……」
「そう。まあ彼らも悪気があってのことじゃないと思うから、許してやってね」
 いくら生徒会メンバーとはいえ、二年だと名乗る生徒が三年に対して彼ら、だなんて、なんか大物っぷりが垣間見える気がする……。
「あ……。じゃぁまあ、大丈夫なようなら、俺はこれで……」
 とにもかくにもさっさと退散しようと思った矢先だった。

「ルリーっ! そんなとこにいたのかぁ? 遅いから心配するじゃないかー?」
 新たな登場人物の声が振ってくる。
 見上げるとそこに、おしゃれボーイ。
「………………」
 いやいや! 宮野副カイチョだ。副カイチョ。

「お? 誰だ? あぁ、転校生じゃん」
 階段を駆け下りてきた副会長が俺を見てそう言った。
「何、どしたの?」
「それがさ、例のボーカル志望に迫られてたところに助っ人に来てくれて。俺がキレる間もなくあっという間に追っ払ってくれたんだよ」
 き、キレるって何!?
 思わず聞きそうになったが答えが怖かったのでやめた。
 一瞬顔をひきつらせた俺の前で、宮野副会長はきょとんとする。
「え、何それ、実はいい奴じゃん」
 簡潔な説明を聞いて俺への評価をあっさりそう決めた宮野副会長は俺を見て意外そうな顔をした。

「……実は、って何なんですか」
「だっておま、初日に案内してやった時の態度、酷かったよん? 荷物もったげるっつってんのに、ちょー冷たく拒否るしぃ」
 ああ、それは。
 ちゃんと訳を話さなかったから、先輩の中では不満が残っているらしい。
「…………自分で持ってたかったんです。大事な写真が入ってて」
 俺はちゃんと訳を話すことにした。
「写真? 何? 彼女の?」
「家族の。今じゃ形見なんです」
「……うわ。ごめん、俺無神経だわ」

 宮野副会長は、見事にしょぼくれた態度になった。
「誰か亡くなったの?」
「おま、聞くなよ、そういうこと!」
 けろっとした態度で尋ねる瑠璃川先輩に向かって宮野副会長は大慌てだ。
「いいんです。……父が昔、病気で」
 もともと父さんなんていなかったから写真なんかなかったけど、俺は写真が形見になった経緯から話題を逸らす為、詳細については適当に嘘をついた。
 本当は、最後になった旅行で撮った写真のことなんだけれど。

「そうか……。そりゃ、人の手になんか預けたくないよな……。ごめんな、俺、なんかおまいさんのこと勘違いしてたわ……」
「……いえ、別に」
 そもそも勘違いするような原因を作ったのは俺だったんだから、謝られても困る。
「俺も素直に訳を話してれば良かったんです。せっかくの親切を断ったりして、すみません」

「………………」
 宮野副会長は無言で俺をじっと見ている。
 え、なんだろう。
「……なんかさ。こういうストレートな言い方って新鮮だよね」
「ああ、そうだね」
 二人はしみじみと何かを噛みしめているらしい。

「バンドやってた頃もそうだったけどさー、生徒会になってからは腫れ物みたいな感じでさぁ、三年でさえ俺らのことあがめちゃってさ、一年坊主に至っちゃ俺たち神さまだよ? ちょっと寂しいよ俺は」
「確かに。この転校生の物怖じしない態度と、俺たちに対する噂や信仰心から脱却した目線は貴重だね」
「…………はあ」
 なんか、えらい大げさな評価をつけられつつあるのは気のせいか?

「それを言うならさっきのボーカル志望の三年生も、結構物怖じしてませんでしたけど?」
「それは甘いよ。彼らはあれで随分と下手に出てたんだ。ああいう子たちが遠慮しなくなると、ぐだぐだ言わずに試させろくらいのことは言ってのけるさ」
「へ、へえー」
 ようするに、あのふてぶてしそうな態度以上のものが普段は装備されてるってことか。

「それにああいう輩は阿呆だから」
「まあ、それはそうですね」
 その意見には素直に賛同する。
 瑠璃川先輩は満足そうに大きく頷いた。
「そう。その点、君は頭もよさそうだし」
「はあ」
 どういう話の流れ?

「転校生くんの編入試験の成績はどうだったの?」
「確か結構な数字弾き出してたよん」
「えっ、なんで知ってるんですか?」
「そりゃあ生徒会権限だね、もちろん」
「…………」

 なんかよく分かんなくなってきた。
「俺を助けようとした時の行動力も言うことなかったね」
「あ、そうそう。高嶺がどうも転校生のこと気に入ったらしくて、相葉に資料見せろとか言ってたよ?」
「げ」
 高嶺って生徒会長だ。気に入ったとか意味分かんないし。
 例のあの強姦未遂の時か、転校初日の食堂の時か、どっちかだ。
 どっちも気に入られるようなことした覚えはないけど!

「うん。それじゃ、もういいんじゃないかな?」
「だよねえ」
「……あの、一体さっきから何の話を?」
 二人の先輩は無言で俺の方を振り返った。
 そんで、声をそろえる。
「「生徒会に入らない?」」

「……………………」
 俺は無言で一歩後ずさった。
 だってさ、有り難くないじゃん?
 ただでさえ目立たないようにしなきゃいけないのに、この上神様だか何だかに構われたせいで面倒臭い奴らに目をつけられるのは。
「えーっと、佐倉くん?」
「どうかした?」

 その上、あの強姦魔に関わる場所に自ら赴くなんて。
「きょ、興味ないんで! 失礼します!」
 俺は申し出を丁重にお断り、したつもりで返事をし、ダッシュでその場を離れようと階段を駆け下りた。