132<諦め>

 次の日、高嶺同伴で今後の俺の行動方針変更の許可をもらいに丸山先生のところに行き、いよいよ放課後高嶺とべったり生活が始まってしまった。
 いや別にべったりすんのが嫌だって意味とかじゃないんだけれども。
 ……まぁ、周りの目さえなければ。

「いよいよ踏み切ったわけだね、オープンな関係に」
「はぁ……」
「周囲の反応、相当面白いみたいだね」
「お、面白いっていうか……」
「大丈夫か? いじめとかされたらちゃんと言うんだぞ」
「は、はぁ」
 生徒会室の応接ソファの上。
 両隣を瑠璃川先輩と福神先輩に挟まれて、俺はさっきから会話のキャッチボールを投げ返すのに必死だ。だって二人のボールはだいたい変化球か剛速球だ。

「ところで話が変わるんだけど」
「え? は、はい」
「佐倉くん、当分の間、高嶺の下校まで生徒会室にずっといるってことだよね」
「は、はい……、あー、あの……なんか、すみません。邪魔……なのは、分かってるんですけど」
「違うよ。佐倉くん、自分で結論付けるの早すぎ」
「え、すみません」
「どうせいるんだったらいっそのこと生徒会の正式なメンバーとして仕事する気はないかなと思って」
「……へ。……あ、え?」
 なんかまた面倒くさい言葉が聞こえた気がするぞー。

「前にも誘ったことあると思うんだけど。その時は高嶺ともそういう関係じゃなかった時だったし、改めて、どうかな?」
 瑠璃川先輩は頬にかかる髪を耳にかけながら首を傾げて俺の顔を覗き込んできた。
「ど、どうかなって……あはは、何言って……」
「冗談じゃなくてさ。本当に、佐倉くんの感覚って、何か新鮮というか、斬新というか……うちに必要な視点だと思うんだよね」
「いやっ、ちょっと待ってください、そんな、なんでそんな話に……」
「いや、前夏祭が近いから人手が欲しいっていうのもあるんだけど」
「そ、それなら普通に手伝いますよ。雑用でも何でも……、別に正式なメンバーとか変にややこしいことしなくたって」
「いやそれがさ。うちの学校って付属の大学がないんだよね」
「……は?」
 大暴投もいいとこだ。いきなり跳んだ話に頭が付いていかない。

「理事長の方針でもあるみたいなんだけど。ほら、全寮制の男子校なんて特殊な環境で大学まで過ごしたら、いざ社会に出た時に馴染めない、なんてことになるのは目に見えてるだろう? だから大学はうちから出て、色んな家庭で育った人のいる、それこそ女の子が半分いるのが当たり前の新しい環境に身を置くべきだ、っていうわけ」
「は、はぁ」
「つまり、大学受験があるわけだよ」
「…………え」
「生徒会の三年生は、受験の為に前夏祭でもって引退なわけだ」
「……ぇえっ!?」
 そそそ、そうか、そういうことになるのか。
「具体的に言うと、副会長の相葉先輩と書記の遥一の二人なんだけど」
「そうなんですか……」
「で、年度内の引退による後任の決定は前任者が指名できる仕組みだったりするんだよね」
「えっ」
 俺はまた、生徒会役員とか実行委員とか、生徒会メンバーとは名ばかりの雑用係を想像してたわけだけれども、もしかしてそれとはまた別の意味合いを含んでるんじゃあ……。
 そんな大層な肩書きを俺に背負えと……?
「だから副会長と書記を決めなきゃなんないんだよねぇ」
 瑠璃川先輩はにっこり言いながらため息をついた。

「いやいやいやいや! 何言ってんですか!? こんな学校中から反発くらってる不気味な転校生、生徒会に入れたりなんかしたら、高嶺が批判されちゃうんじゃないですか!? 恋人びいきだとかなんとか!」
「あはははは」
 いきなり瑠璃川先輩は笑い出した。
「え?」
「ぶ、不気味って……! それに恋人びいき……!」
「え、えっ」
「自分のこと不気味って思ってるの……? 眼鏡と前髪が地味めな雰囲気は作ってるかもしれないけど、さすがに不気味とまでは行かないって……! というか、恋人びいき……! 高嶺の恋人だって認識が自然に出るようになったんだねぇ! 前は布団かぶって恥ずかしがってたのに……!」
「えっ! あ、いやそれはっ」
「成長したんだな」
 福神先輩にしみじみ言われ、頭を撫でられる。

 そこに前触れなく生徒会室のドアが開く音が響いた。
「っあー! ヨウさま何佐倉ちゃんの頭撫でてんのーっ? 俺もーっ!」
 帰ってきた宮野先輩がハイテンションで駆け寄ってきて、撫でるどころか俺の顔面を胸に押し付けて頭ごと抱え込むという暴挙に出てきて俺は抵抗する気力も失せた。
 この人たち、自由すぎる……。

「おいそこ! 人がクソ忙しい時に目の前で遊ぶな!」
 ようやく高嶺から助け舟が出される。
 けれど宮野先輩は離れてくれない。
「遊んでないしー。一仕事終えた後の癒しを堪能してるだけー」
「夏樹で勝手に癒されてんじゃねえ! 俺の許可を取れ!」
「えー、そこは慎也の許可じゃなくてなっちゃんの許可でしょー。なっちゃん俺に許可くれる?」
「えっ……」
「夏樹が許可するのは俺だけに決まってんだろうが! いいからこの書類! 添付する資料まとめ!」
「げっ、何、慎也。もうそれ仕上げたの?」
「てめぇが遊んでる間にな!」

 なんで俺は宮野先輩は俺の頭を抱えながら高嶺と言い合いなんかしてるんだろうか。
「別に遊んでないしー。……ねぇ、なっちゃん?」
「……どうでもいいんですけど、先輩いつの間に俺のことなっちゃん呼びですか?」
「ほほぅ。やっぱ気付いた?」
「ええっと……」

 何から突っ込もうか考えている間に高嶺から再度、資料まとめと叫ぶ声が聞こえてきて、宮野先輩はやっとしぶしぶ高嶺の机に向かった。
「慎也気合入ってるね」
 瑠璃川先輩が感心したように呟く。
「なっちゃんと早く帰りたいんだろな」
「……福神先輩までなっちゃん呼び便乗する気ですか」
「だって呼びやすいぞ」
「もう、好きにしてください……」
 俺の境地は既に諦めの域に達している。

「……お二人は仕事大丈夫なんですか?」
 そういえばさっきから俺の相手ばかりしてくれているのに気が付いて、俺はさりげなく聞いてみる。仕事に戻れよ的な意味に聞こえないよう細心の注意を払いながら。
「あぁ、大丈夫。俺の仕事は今高嶺のチェック待ち」
 瑠璃川先輩の返事はにこやかだ。
「右に同じく」
 福神先輩も堂々と答えている。
「会長は今宮野に仕事振るのを優先してるみたいだから」
「え、そうなんですか」
「まぁ、宮野が急かしてるしね」
「……もしかして、俺に抱きついてきたのがそうですか?」
「そうそう。よく気付いたね。早く仕事振らないと佐倉くんで遊ぶぞっていう宮野の脅しだよね」
「………………」
 これから放課後毎日ここで過ごす身としては、なんだかあまり聞きたくなかった生徒会の内情だった