14<探索>

 生徒会の副会長と会計から逃げ出して二日が過ぎたら週末になった。
 転入して初めての日曜日だ。
 今日の予定、安達と萩迫と、敷地内探索。
 転入当日までは日曜なんて当分独りだろうって思ってたのに、友達と計画があるなんて、なんかちょっと嬉しい。

 まあ、恋人同士の休日にそんなことさせられないと思わないでもなかったが、安達が何が何でもって感じに誘ってきたんだから今回はいいことにしようと思う。
 朝から晩までべったり二人に張り付いてるわけでもないしな。
 探索、っつーか、案内してもらう数時間の間だけ。

「あ! 佐倉ちゃんだ! おっはよー!」
 寮の東館と西館の間の連絡通路、ちなみに一階。
 そこには既に、待ち合わせていた安達と萩迫がいた。
「あはは、安達朝からテンション高いなぁ。おはよ」
「よっ。朝っつーかそろそろ昼だけどな、もう」
「あ、そっか。おそようか」
「うええー、ぎりぎり午前中だってぇ」
 三人でささいなネタを話題にして大いに盛り上がる。
 なんか、久々だよな、こういう感覚。

「ねえねえ佐倉ちゃーん。日曜なのに眼鏡外さないの?」
「え?」
 小首をかしげていきなりそんなことを聞いてきた安達。
「だって授業ないしさ、寮から出ちゃえばそんなにしょっちゅう他の生徒には会わないよ? こういう時くらい外しちゃえば?」
「え……、あー、いや、そっかなぁ」

 言われてみれば、安達の言うことも最もだ。
 だいたい伊達なんだし、眼鏡なんて重いしずれるし視界はせまいし頭は痛くなりやすいし、いいことなんか全然ない。
 ……でも。
「何があるか分かんないし……、一応」
 だって眼鏡かけてたって二人には初日に見せるハメになったんだぞ。

「えええ~」
「光~、お前、佐倉の素顔が見たいだけだろ」
「あは。バレた?」
「お前は俺という者がありながらっ」
「いや要だって超カッコイイよ!? もう毎日朝見るたんびに惚れ直すくらい! 三日で飽きるどころか三万回生まれ変わっても飽きない自信がある!」
 安達と萩迫はそんな会話を俺そっちのけで始めている。

「そ、それは言い過ぎだって恥ずかしいな……」
「いやホントだよ! ……だけどっ、佐倉ちゃんのはさ! また別の可愛さっていうか、キレイさっていうか!」
「ま、まぁ言わんとしてることは分からんでもない……」
「あぁー! 要の方こそ僕という者がありながら……!」
「はいはいはい二人とも。なんか俺お邪魔虫的な展開になってきてるから、今日の予定を実行するか部屋に帰ってラブラブするかどっちか決めてくれ」
 俺はつい二人の会話にツッコミを入れた。

「あっ、ごめんごめん!」
「そ、そうだな! 行くか!」
 二人して顔を赤くして痴話げんかを取り繕っている。
 萩迫なんて俺にあっさり暴露したくせに、俺がいざ当たり前みたいな態度でからかうようになると照れに走るんだから、面白い。
「じゃあ、まずは外系のとこだね!」
 話題をすっぱり切り替えようとするような行き過ぎた明るい声で、安達は今後の探索方針を打ち出した。

 ちょうど寮の裏手にあったテニスコートを始め、遊歩道の途中にある噴水付き広場、色々育てているらしい温室、何かの記念らしい石碑、学校と他を行き来するのにタクシーや自家用車を使う生徒の為の一時駐車場、学校を見渡したりこの山の景色を楽しむ為の展望台、等々。
 案内された場所はどこも、それとなくセンスの良い造りだったり思いっきり豪奢だったりして俺を引かせるには十分だった。

「金かかってんな……」
「卒業生のデザイナーが無償でやったりとかもしてるらしいよ?」
「へえ」
 だとしても、実際の工事費や使ってる材質の分の材料費は無償じゃあるまいに。
「俺らは初等部からここだからなぁー。あんまり外のこと知らないけど、こんなもんじゃないのか?」
「おいおい。まっさか。……頼むよ、テレビとか見るだろ?」
 普通のドラマに出てくる普通の学校が普通なんだと言ったら、萩迫はその普通が分からないと言ってのけた。
 恐るべし。

 それから二人の探索行動もとい、俺への学校案内はメイン校舎以外の建物へと移っていく。
 メイン校舎は既にここ数日でだいたいの場所を教えて貰った。
 方向音痴の俺では覚えたとは言い切れないけれど。

 すごいのは体育館で、一階のフロアの他に、地下にも体育フロアがあって、二つのクラスが同時に授業できるようになっていた。中等部と高等部が同じ体育館を使うからフロアが二面いるんだろうけど、それにしても地下の体育館て、新鮮。
 それでもっと新鮮なのが、その体育館のさらに上の屋上にあるプールだった。
 今は時期じゃないから鍵がかかっていて中には入れなかったけれど、下から見上げると、まるで屋上庭園みたいな木がちらほら見えた。
 屋上は日影がないから、夏の日差し対策なんだそうだ。

「そんでー、ここがシェリーズホール」
 最後にやってきたのは、なんか二階席とかまである講堂だった。
「……すっげ」
 舞台がある。体育館についてるような舞台とは別の、張り出し舞台だ。上を見ると、照明の数も凄い。シーリングまでついてるし、舞台袖も大きそうだ。内幕の数も結構あるし、よく見たらホリゾントライトまである。
 客席こそ折りたたみ式で自由に配置できるタイプのものだけど、ちょっとしたステージなら大体かるくこなせそうな設備が整っている。

「入学式とか終業式とか始業式? あと、行事のたんびにここ使うんだ。シェリーって外国の人が設計したからシェリーズホールなんだって」
「…………単純明快だな」
 俺は率直な感想を口にして、ふらふらと舞台の方へ近寄った。

「気に入ったのか?」
「だってこれ、こんなさ、すごい講堂、普通の公立じゃーまずねえって」
「ふうーん。そうなんだ」
「ドラマとかに出てくる、舞台付きの体育館。ああいうのが行事の時には講堂に使われるんだ」
「へえ! あれって一昔前じゃなくて、今でもそうなんだね!」
 安達はなんか恐ろしいことを口にして驚いている。
 日本人はいまだにチョンマゲで着物だと思っている外国人と同じレベルじゃないのか?

「……でもま、こんな凄い設備を小学校から使ってりゃそうなるか」
「そんな凄いんだ」
「ライブどころか、演劇系のこともできるんじゃねぇ?」
「あぁ、ステージは色んなクラブが使ってる。演劇とか吹奏楽とか」
 普通に答える萩迫。いい環境だな、金持ち学校のクラブ活動は。

 そんなことを思っていたら、安達がとことこと駆けてきて、ぴょんっと飛んで舞台に腰掛けた。
「ここ次使うのいつだっけ? もしかして、前夏際?」
「ぜんかさい?」
 聞きなれない言葉にふと聞き返す。
「そう、前夏際。ほら、うちって全寮制だから、夏休みになるとみんな実家に帰ったりさ、それぞれの地元に帰ってばらばらになるじゃない?」
「え、あ、うん」
 実家にはもう誰もいない俺はたぶん帰らないだろうけど、俺はとりあえず頷いた。

「ってなると、二学期まで長い間、特に仲いい友達でもないと生徒同士の交流はないことになるでしょ?」
「まあ、そうだな」
 地元が遠く離れすぎていたら、仲いい友達とは一回か二回会っても、他はないだろう。
「だからそうなる前にね、生徒同士の交流を深めて長い夏休み前に盛り上がろうって行事なんだ」
「ふーん……」
「文化祭とかも秋にあるけど、受験で忙しい三年の中には本腰入れられなくなる生徒もいるから、これが最後ーって感じで三年は特に盛り上がるんだ」
「ほー。……で、何やるの?」

 俺は肝心なところを尋ねた。