24<調子>

「……なんでもいいから、覚えてること話してみろ」
「は?」
 高嶺生徒会ちょ……いいや、長ったらしい。高嶺は向かいのソファにどかっと腰をおろし、なんか尊大な態度でめちゃくちゃナチュラルに命令をした。
「なんでそんなことあんたに……」
「当然の権利だろうが。お前を介抱してやったのは俺だぜ? コーヒーでも買いに行こうと思ってたのに、お前のおかげで買いそびれたんだ。訳は聞かせてもらう」
「………………」

 いや、そりゃめちゃめちゃ正論だけどさ。
「……別に頼んでねぇし」
 なんか、納得いかない。
「おい、お前、調子乗ったこと言ってると犯すぞ」
「お、犯……っ、あんたマジでそっち系なのかよ……!?」
 足腰立たない奴には無理強いしないっつってなかったか!? さっき! 一分もたたないくらい前!

「男も女も、たしなむ程度にはイケるぞ?」
 高嶺はけろっと言ってのけてくれた。
「あのキスのどこがたしなむ程度だ……」
 思わず反論せずにはいられないくらい。だいたい、初対面の時の高嶺の手際は手慣れすぎだった。
「ふぅん。思い返しちゃう程良かったって?」
「ない! 断じてない!」
 ななな、なんつーことを言い出すんだ、こいつは!
「いいから」
 高嶺は低く鋭い声を発する。

「話せよ。お前だってこのままうやむやにしていいとは思ってないだろ」
「………………そりゃ」
 確かに、そうだ。
 なんか、ちょっと変なことが起きたらしいのは自分でも分かる。
 だけど、なんか。

「……………………よく、分かんねぇ……けど」
 確かじゃないんだ。
 夢、だったような……。こんな感じの夢を見た気がするって思うのと同じ感じの……、そう、記憶と言うより感覚。
「別にいい」
 そりゃ、いいと言うなら別に構いやしないけど。
「…………部屋で、寝てた。……と思う」

 確かなのはそこだけだ。
「……えー、っと……、暗い? 感じで……、ぐるぐる、してて……」
「あー?」
 俺の言葉は抽象的すぎて、高嶺は眉をしかめて目を細めている。
「がんがん……響いてさ……、あたまが……ぐるぐる、と」

 なんだっけ。……えー…………っと。ぐるぐる……何かが。
「………………、……か」
 暗い。隅で……えーっ、と?
「ストップ!!!」
「あ?」
 いきなりかけられた大声に、俺は思考をストップさせた。

「……な、何だよ」
「いや、何でもなかった。やっぱりいい。この話はなしだ」
「は? あんたが言い出したんだ……」
 ろう、という言葉の語尾は埋もれてしまった。高嶺の胸に。

「ぅおぉおおい!」
 とりあえず高嶺の胸からは顔を背けて、背中に回してくる手から逃れようともがく。
 なんで抱きしめられてんだよ俺!
「はなせっ!」
「くそ面倒くせえなお前は……。うざいな。ハッキリ言ってうざい」
「うぜぇなら離せ阿呆!!」
「離すと余計うざい」
「はぁあ!?」

 高嶺は意味の分からないことを言って俺を抱きしめる力を緩めようとしない。とりあえずまだ足腰が回復していない俺は、高嶺がそれ以上のことをしようとしていないのを確認してから抜け出すのを諦めた。
「…………まあとりあえず、礼は言うけど」
「何だって?」
「……だから。よく分かんねぇけど、あんたのおかげで助かったっぽいのは確かみたいだから……」
「やけに素直だな」

 意外そうに呟く高嶺……。くそ。そういう態度なわけかよ……。
「あぁそうか。礼なんかいらねぇってか。ならいいな。さっさと離せよ変態」
 面と向かって礼を言うのが馬鹿らしくなってきた。
「てんめぇ、この姿勢でそのセリフが吐けるとはいい度胸だなァ」
「俺は信じてるぜ? 足腰立たない奴に無理強いはしないって言ったあんたを」
「………………お、前……なぁ……」
 高嶺は一瞬言葉を詰まらせて呆れたように肩を落とした。

「今日のところは信じられてやる」
「ありがとう」
「っ、てめ……」
 高嶺は半分俺を睨むようにして顔を引きつらせ、顔をぶんぶん振ってから俺から離れていった。
 ひっつかれても暑苦しくなかったのは、ひとえに立派な空調設備のおかげだろう。

「今日は泊まっていけよ」
「……え?」
 なんか、幻聴を聞いたか?
「なんか言った?」
「また過呼吸が起きたら困るだろ。今日一晩は様子見で誰かと一緒に居たほうがいい。だから泊まっていけ」
「………………げぇ」

 思わず正直な感想が。
「そんな迷惑かけてらんねえよ。帰る帰る」
「帰らせて独りにして発作を起こされるほうが迷惑だ」
「……別にあんたに看てもらう必要はねぇだろ」
「じゃあ誰かお前の部屋に呼ぶか? 今から事情を話して? まあ保健医の丸山先生なら生徒のことになると顔色変えて飛んできてくれるだろうけどな。夜の十一時でも」

「………………え」
 俺は部屋の時計を探してあたりを見回した。なんか高そうな時計がちくたく針を進めているのを発見する。
「……すげえ。こんな時間なのか」
 五時過ぎにうたた寝して、うたた寝がうたた寝にならない時間寝ていたらしい。一、二時間な気がしていた俺、アホだ。

「事情を丸山先生に話してオオゴトになるのと、このまま俺の部屋で寝て帰るのとどっちがいい?」
「……………………」
 たしかに丸山先生なら大丈夫かい!? って顔色変えて駆けつけてきてすごく心配させてしまいそうだ。
 それは、こいつの部屋に一晩泊めてもらう迷惑よりやや心苦しい。
 いや、高嶺にも悪いと思ってはいるけど。
「……分かった。泊まらせてくれ」
「いい回答だ」
 高嶺は俺に向かって笑いかけ、小さく頷く。前も思ったけど、本当、どこぞの芸能人かって感じだな。

「立てるようになったらシャワーでも浴びろ。俺は仕事を片付けてくる」
 人を襲う変態なのに生徒会長らしいことを言うからそのギャップが俺にはめまぐるしい。
「……ああ、さんきゅ」
 最初の出会いがアレだったから俺は高嶺に対して尊敬の念なんかなく、普通にタメ語で話してるけど……、いいよな? 向こうも不快感ないみたいだし。俺は一年だけど、二年の高嶺とは年はタメだし。それに、今さらだしな。

「着替えはシャツとジャージでいいだろう?」
「あ、あぁ。何でも。大丈夫」
 本当、調子狂う。