26<声>

「……ぅ、あ」
 自分が出した声で目が覚めた。
 え、寝言、恥ずかしいな、と思って重たいまぶたを持ち上げる。
 光が眩しくて、涙がじわっと浮かんだのに気が付いた。
 ついでに、目の前にその光の直射を遮ってくれている影があるのにも。…………。
 は?

「っは、あ? あ!?」
 重い、動けない、何だ!? と思った時には声も出なくなっていた。
 ……塞がれて。
「……っ、ぅぅぅうう!」
 さすがに分かる。分かるぞ! 寝起きだろうと寝ぼけていようと、さすがにこれをされて目が覚めないわけがない!
 キスっつーかチューっつーか、舌……!

 高嶺ぇええええ!!!!

「………………っっっ!!!」
 何もしないって! 信じられてやるって昨日……!! 信じた俺が馬鹿だった!!
「っふ、ぅう!」
 寝起きっつうか、めちゃめちゃ睡眠中だった相手に何やってんだ!?
 こういうのを寝込みを襲うっつうんじゃないのか!?
 プライドはないのか貴様……!

「んぅーッ!!」
 この怒りをどこにどうぶつければいいのかも分からないのに、事態が思った以上のものであることにどんどん気付いていってしまう。
 シャツの中に直接入り込んでる手が凄い熱い。
 その動きに気を向ければ、どうやら事故の時の傷跡をなぞっているらしいのが分かった。

 その部分がじんじんと疼くのには嫌が応でも気付かざるを得ない。
「……目、覚めた?」
「っあ、……ッく」
 声がして、舌を解放されたことを知る。けれど、予定していた罵詈雑言はどうしても喉から出なかった。
 もう、もう、喉を通る息を止めるのに精一杯で。

「なんだ、寝てたままの方が素直な声だったな」
「ふっ……ざけッ」
 舌が、首筋を。
「っ、ヤ、め……」
 ああ、あぁ、もうもう、耐えられない。耐えたくない。嘘だ。夢だ。

「息、止めねぇで声出せ」
 いつの間にか、空気に晒されていた素肌の上、胸に高嶺の舌が降りる。冗談かと思う行動に、俺はただひたすら両手を握り締めるだけ。
「おいおい、初心すぎる反応だな。まさか女もまだ?」
「……ッ、て、め……ぃあっ」
 胸から痛みに近い感覚がぴりっと背中の方へ走る。首の後ろに何かいるんではなかろうか。

「当たり?」
 胸なんかを甘噛みしてくれたらしい高嶺は殺してやりたいような口を聞いてくる。
「……っざけん、なっ……!」
「あぁ、男が初めて?」
「……ったり、まえっ」
 いや! ってか、初めてにしたくないし!
 一生、男の初めてなんか嫌だ!!

「はっ……ぅ」
 そう頭の中では叫びまくっているのに、口から出そうになる声は信じられないものばかり。
「お前、この手邪魔。頭の方に上げといて」
 あろうことか、腹の方にまで舌をたどり着かせた高嶺は、そこにあった俺の両手をひょいっと持ち上げて移動させ、俺の頭の上に無造作に置いた。
「…………」
 そこで気付く。

 俺は今両手が自由なんじゃないか!
「っは、あ! な!」
 何を握り締めて耐えてたんだ、と自分が腹立たしく、急いで抵抗を試みようとするのに、握り締めた両手が離れない。
「何、なに!? は!? あっ、い!」
 やがて、そんなことも考えていられなくなる。
「何急に慌ててんの?」
「あっ、うそ……っ!」

 その光景が信じられない。
 男が男のものなんか握って何が楽しいんだ? 女の子と違って、可愛らしい反応が返るわけでもないのに。好きな子を気持ち良くさせてあげるってシチュエーションでもない。
 そもそもこれは合意じゃなくて無理矢理だ。

「お前、いちいち凄ぇな。そんなんでイク時はどうなんの?」
「ぅっ、……ッ、く、ぅ」
 あぁ、なんか、訳が分からないうちに、もうどうしようもないところまで来てしまっている気がする。  そういえば、入院してからは一回もそういう気にならなくて、夏休みから数えたら9ヶ月くらい、ご無沙汰だったわけだ。
 そんなしょうもないことに回る思考はあるみたいなのに、状況改善ができる考えは一向に浮かばない。

「やめっ……あ、まじ……、っめ」
「やめていいのか? ここまで来たら最後までやるしかないだろ? 男の生理現象だもんなあ?」
「っう、あ、あ」
「…………やっぱ可愛いな、お前」
「うぅう、うあ……」
 声を出さない為に息を止めたいのに、その息がどんどん荒くなっていって、もう何から手をつけていいのか、さっぱりだった。
 髪を梳いてくる熱い手の感触に縋りたくなる。

 誰か、誰でも、何でもいい……、とにかくこれを、止めてくれ。
「あっ、ぅあ、あぁァむり……っ、だ、だめだ、あぁ」
 揺れる。……どこかへ落ちていきそうになる。いや、流されて……。
「……やべえ。まじで何? その声」
 もう、もう無理だ、からだが……、壊れる、芯が……あつい、無理、力が、溶ける、あぁ。
「お前……、ノーマルって勿体無ぇな」
 全部が、真っ白になって、波が……。