50<理由>

「……夏樹」
「ん?」
 呼ばれて答える。
「……俺も、一緒でいいか?」
 高嶺は囁くように訊いてきた。
 背中にまわっている手に力がこもったのが分かる。
「一緒?」
「……お前が、本当のことを知る時は、俺も一緒にいる。そばにいたい。いさせてくれるか?」
「…………高嶺?」
 何を尋ねたいのかは自分でもよく分かっていなかったけど、俺は思わず高嶺の名前を呼んでいた。

「ん?」
「いや……えっと」
 一番最初に出会った時の、他の意見を許さない的な自信たっぷりの態度はどこにいったのか。
 俺はあの時の高嶺に思いっきり反発していたのに、そんな態度を取られたのでは調子が狂ってしまう。
 それに、あの、人の意見も聞かずに無理矢理押し倒そうとかした俺様な高嶺はどうしたんだ?
 俺が嫌っていた高嶺が、どこにもいない。

「えーっと……」
 しかも、確実に高嶺の腕は安心する。知らなかったのに、そうであることをもう知ってしまった。
 何も知らないままだったら簡単にこの腕を拒否できていたのに。
 ついさっきまで、冗談じゃない、ふざけるなと拒絶できていたのに、あのフラッシュバックとかいう超怖いものから俺を救い出した高嶺はハッキリ言って頼もしすぎる。
 いやフラッシュバックを起こさせたのも高嶺なんだけど、それだって俺の為に色々動いて考えた結果で。結局、的をちゃんと得ていて。
「どうした?」
「………………あ、の……さ。……なんで、態度……違うわけ?」
 俺はとうとう、聞いた。
 なんとなく、分かっていたけれど。

「態度? 何が?」
 俺の話をよく聞こうと高嶺は首を傾けてくる。
「いや、なんか……。初めて会った時とかと、今……なんか別人なんだけど」
「そりゃそうだろ。本気になったんだから」
 高嶺は、それ以外に何があるんだとばかりにまっすぐ答えを出した。
「………………」
「俺が基本的に人に対して態度でかいのは自分でも分かってる。性格だ。けど、本気になった相手に対する態度がこうなのも俺の性格だ」
「………………」
 そんなこと、ぎゅーっと抱きしめられながら言われたって、どうしていいか分からない。

「あああ、あのさ。俺……、お前みたいに……、性別拘らないとか……感覚、分かんないんだけど……」
「分かんない? 分かんないって言ったか?」
 高嶺は焦ったように訊いてくる。
「え、ああ」
「ないと思ってるわけじゃないんだろ? 分からないと思ってるだけなら、試してみれば分かる」
「ぇええっ」
 ちょっと待てそれはかなりこじ付けじゃないか!?

「いやいやいや! あの! いやちょっと待て! っていうか! そもそもなんで俺!?」
「おい、今さらそこか?」
「いやだって顔かとか思ったりしないわけでも……。態度すげぇ変わったし……」
「確かにお前の顔も魅力のひとつだ」
「やっぱ顔かよ」
「違う、顔の造形だけなら良い奴は掃いて捨てる程いる。しかもそういう奴らは自分の顔を武器にする方法を分かってる。表情を作るからな。俺はお前の作ってない表情が好きだ」
「………………」
 顔の、美醜じゃなくて、表情?

「……そんなことで、本気になんのかよ」
「なるわけないだろ」
「………………」
 高嶺の物言いは俺を無言にさせる。
「それだけで本気になったりするか。……お前はとにかく、裏表ないだろ。よく言われないか?」
「え……あぁ、言われた、かな」
 要に、そんなようなことを言われた気がする。言葉が誠実とか何とか、妙に恥ずかしい言い回しで。
 ってか覚えてる俺! 何気に覚えてんじゃねえよ恥ずかしい!

「それに、当たり前みたいに凛と立ってる」
「………………え」
「まっすぐだ。他人の色に簡単に染まらない。自分の立場を守ってもらうために強者の色に染まりたがる奴はたくさんいるけど、お前はそういうことに見向きもしないだろ」
「………………たか、みね」
「それから自分の気持ちを曲げずに言葉にしてくるところ。正直、そういうのには本気で救われる。お前のそういうところに俺は惚れた」
「………………」
「そんな奴に出逢えるとは思ってもなかった。理想だ」
「……」
 ……恥ずかしくて、どうにかなりそうだ。

「……夏樹」
 好きです、付き合ってください。
 そう告白されたことはあっても、こんなに事細かに惚れた理由を聞かされたことなんてない。
「耳、赤いけど。照れてんのか?」
「……れて、ねぇ」
 正直、いっぱいいっぱいだった。

「大丈夫か?」
「……じょぶだ」
「じょぶだってお前、じゃあこっち向けよ」
「いやだっ」
 なんで。なんでだ。
 何なんだこの雰囲気!
「俺の好みは健気系な妹キャラっぽい女の子だっ! 背が低いとなお良い!」
 姉ばっかで双子の夕香がいたとはいえ、妹がいない俺にとっては憧れるタイプ。そう、俺は女の子が好きなんだ。
 いくら高嶺の告白が胸にぐっと来たって、相手は男で、ノーマルな俺にはこれ以上先をどうこうできるわけがない!

「なんか最後の悪あがきっぽいぞ」
「あがいてない! だってそうだ! 高嶺なんて俺より背が高いじゃねえか! 妹どころか兄貴って感じだろ!」
「理想と比べるってことは、恋愛対象としてはすでに入ってるわけだ」
「ばっ、ちょっ、待て!」
「お。こっち向いたな」
「……っ」
 思わず顔をあげてしまった俺は高嶺とばっちり目が合い、息を呑む。

「……おい。なんだそれは。……恥ずかしすぎて目うるんでんの? 可愛すぎ」
「え、えぇええぇっ」
 可愛いって、何それ、あ、あぁ、眼鏡っ! そうそう、眼鏡は!?

「め、眼鏡ない」
「そこらへんに落ちてんだろ」
「ええ、どこ」
「いいから眼鏡は後だ、こっち向け」
「え、う」
 今度は、聞かれなかった。

「ぅん……ぁ」