51<可愛い>

「……あ、……あ、たか……みっ」
 キスの合間に必死で制止の言葉を言おうとするのに、すんでのところで高嶺の舌は俺の口を塞いでくる。
 どどど、どうしよう。
 男同士でこんなキス、普通じゃない。違う。だって、どうしたら。
「んっぅ」
 むね! むねむねむね!
 女じゃあるまいしそんなとこ摘むな阿呆っ!!

「ン、ンんぅうっ」
「あ、苦しかった?」
「たかっ! あっ、まっ、ちが! っこら!」
 視界が傾く。ベッドの上に結構な勢いで横たえられた。……押し倒されたとも言う。
「ままままっ、待てって!! 考えろ! いや俺が考える! いやっつーか考えられない! 想像の域を超えてる!」
「……お前、こんな時まで面白いな」
「ムカつく何だその余裕……!!」

 叫ぶのに、高嶺はハイハイと適当な答えを返してきて俺の首筋に顔を埋めた。
「っう、……わ、……っだぁあ」
 止めてほしい。止めてほしいのに、高嶺の腕を掴む手に力を入れるキッカケがない。
 何これ。俺は受け入れてるのか? 嫌がってないけど嫌だって言ってみる恥ずかしがりの女の子か!?
「ちがちがちがっ、違うそんなの! 嫌だっ! ほんとに嫌だ! 嫌なはずだ!」
「はずだ、ってお前、いい加減観念しろよ」
「無理だって! だって俺! 観念したらどうなんの!?」
「可愛い声をあげる役になる」
「女役ってことだろハッキリ言え!」
「何、女役が嫌なのか? お前俺に突っ込みたいわけ?」
「ふざけんな!」

 あぁ、良かった、ふざけんなの一言が出た。
 さっきまではそれが出なかったんだ。
 なのに。
「あー、お前可愛すぎ……、何その涙目……」
 目じりに、……キス、を。された。
「………………」
 俺は乙女か。乙女なのか。
 やっぱり女系家族に生まれ育った宿命なのか。女に囲まれて生活してたからこそ、男らしく在ることを結構頑張ってたのに。

「ああああぁ、俺自分が気持ち悪い……、こんなん違う……、何、あぁ、もう……」
「かなり崖っぷちだな」
 もうすぐ落ちてきそうだ、と高嶺は俺の耳元で囁いた。
「……っ」
 ぞく、と全身が痺れる一撃が、耳の後ろに。
「ン……、っ」
 そのままツーっと胸元まで降りてきた熱と、その熱が残すひんやりとした跡に息がつまる。

「……痛くない、気持ちよくなるだけだ」
「っぁ」
 傷跡に舌が。
「ぅん、……っふ、ウ」
 た、た、たえ、耐えられない!
 自分一人でこの痺れをやり過ごすなんて、絶対無理だ!
「ぅぅゥううっ」
「……夏樹、いいから」
「……ン、っく……、な……に、が」
 高嶺は俺の顔を覗き込み、額にキスをしてきた。
「……ぎゃあぁ」
 なななな何だどこぞの海外恋愛映画のベッドシーンか! 俺はもしかしてもしかしなくても女優側か!?

「いちいち可愛いな」
「なんでだっ」
「ぎゃあなんて普通言わねえぞ」
「お前の判断基準が意味ふめ……っ……っくぅ」
「だから、いいって言ってるだろ」
「は……な、にをっ」
「感じてもいい」
「……っ、は」
「感じるのは恥ずかしいことじゃねえよ、夏樹。お前ってどうも微妙に奥ゆかしいな。可愛いけど」
「……も、それやめ」
 可愛い可愛い言い過ぎだ!!
 男の俺としては微妙な気分になるから!

「ッ、ンぅっ」
「ていうか、声。我慢できなくさせてやるから、俺が」
「いっ……、あ」
 冗談じゃないと思うのに、抗議の声が出ない。
 頭の芯に抜けそうになる熱を堪えるには息ごと止めるしか方法はない。
「……っ、……っは、はぁ」
 けど息なんてそう長い間止めていられるもんじゃない。
「あ、ぁ、……は、も……まっ」
 体が勝手に息をし始めて、体中をめぐる熱が勝手に息に声を乗せる。
「ぅ、ぁ、あ、……や、ぃや、だ……も、むり」
「お前……ほんと、感度良いよな。こっちが怖いくらいだ」
「ふっ……う」

 みぎ。
 あぁ俺、そんなとこ自体思ってもなかったけど、右のほうが感じるんだ。
「……あ! っくそ!」
 いや、何言ってんだ俺……っ、いや、思って!? あ。……っていうか、も、体が……、止まらないとこまで、きてる。
「……なんか、大丈夫そうだな、今度は」
「……は、……はぁ、……んど、て……、なん、だよっ」
「体の力抜けてる」
「や……、ぉっ……まえ、がっ」

 あぁ、嘘だろ。
「んアっ」
 な、舐められ……、そんな。馬鹿な。
「ヤややや、ぁ、……め、めろっ、ぁ……っく」
「こうされんの、初めて?」
 16で初めてじゃない奴なんて世の中そんな多くねえ! ぜったい!!
「……っ」
「みたいだな」
 バレる。
 いやでもっ、童貞でなくたってそれは経験ないやつ多いんじゃないのか!?

「っあ! っは、ぁうぅ」
 もう駄目だ! 声どころじゃねぇ……っ!!