52<恋愛>

「ひ、ぁ、あぁ、だ、だめだっ、っく! たかっ、ヤばい、ってぇ!」
 変な声を聞かせてたまるかなんて細かいことを気にしてる場合じゃない!
 まじで! とんでもないことになる!
「はな、はなしっ、ッ、く」
 体の奥から、芯を捉えて離さない、どうしようもない感覚。
「あ、ア……ッ、いっ、く……っ!」
 高嶺は、高嶺は、含んだままで、もう、もう絶対離す気がない気配満々だ……!
「……ッ!!」

 からだが、勝手にうごく。

「……っか、ヤろぉぉ……」
 なきたい。

 衝動のまま何もかも吐き出したくなる。主に気持ちと、声。
「……、く」
 体が、ふわふわする。
「は、はぁ……っ」
 止まっていた時間が動き出したように、夢から覚めたように、戻ってくる感覚。
「……た、たかみね」

 あぁ……くそ、過ぎたことは仕方ない。
「……ん?」
 俺は無理矢理体を起こして両の手の平を上向きにして差し出した。
「吐き出せ」
「…………ふっ」
「…………」
 なぜかそこで背中を丸めて震え出す高嶺。どうにも笑ってるようにしか見えない。
「おい」
「ああ、オーケー」

 高嶺は言って俺の右手に自分の手を添えて口を近付けた。
 な、生暖かい感触。けど。
「……しろくねぇ」
 手の中のそれは、無色透明だった。
「お前のはさっきの衝撃で飲み込んだ」
「……な、なんつぅっ、おま」
 本気でふらっとする。
「苦いなあ……流石に初めてだ俺も」
「阿呆か!! なに飲んでんだよ変態っ!」
 ありえない無理死ぬっ! 誰か俺を埋めてくれ!
「お前が変なことするからだろ。ティッシュ探すやつはいても、そこで自分の手出す奴は初めて見た」
 高嶺は平然と口元を拭っている。

「だ、でっ、だだ、だってしょうがねぇだろ! ってか! じゃあこれは!?」
「俺の唾液」
「吐き出す意味あんのかそれ!?」
 この、俺の手の平にたたえられている高嶺のもの。
 一体どうしろっつーんだ!?

「それについては任せろ」
 自信満々な高嶺に嫌な予感がする。
「とりあえず横になれ」
「はあ!?」
 続ける気か!?
「ちょ」
 悲しいかな、ほんの少しとはいえ手にあるのが液体だと認識していたせいで、腕を自由に振り回せなかった。
「たかっ」
 こともあろうに再び押し倒されたあげく、抗議の声はキスで塞がれる。
 しかもおい! 今俺のを飲み込んだ口で……!!

「んっ、ちょ! ンんっ!?」
 いやそりゃすでにスボンの前は高嶺によって全開だったわけだけども!
「ふぅウううっ」
 だからって、全部ずり下ろされても今さら恥ずかしくないなんて誰が言った!?
「たっか、みねぇ!」
「ほら、手、こっちだ」
 俺の必死の呼びかけむなしく、高嶺は俺の腕をとって引っ張った。

「…………」
 ちょ、待て、何やって……。
「女と違って濡れないからな。何かで無理矢理濡らさないと」
「……あ。あー……ままま、いや何まじ何それ待っ」
「慣れれば後ろの方が気持ちいいみたいだぞ。男の体はそうなってるらしい」
「だったら自分でやれよ!!」
 高嶺の唾液がありえないところに伝わってくる。もう、どうしたらいいか分からない。

「お前はやれないだろ、俺に」
「なんで俺がやらなきゃっ、イっ!」
 ははは、入って! ゆ、指!?
「力抜け。ゆっくりでいい。俺に投げ出せ」
「……っ、む、り……」
 じゃあお前できんのかと逆に問いただしたい衝動に駆られるが、体はそんな場合じゃなかった。
 とにかく、尋常じゃない圧迫感。
 ンなとこには何も入るように出来てねえと全身が訴えてる。

「イ……や、め……むりっ、たか……み」
「落ち着けって。力入りすぎだ。抜けば楽になる」
「…………っ」
 無理に決まってる。
 一生懸命首を振るのに、高嶺はどう捉えたのか、中の指の曲げ伸ばしを始めた。
「いぃっ、やめ、も……いや、だっ」
「痛いのか?」
「い、いたい、っつーか!」
 必死で高嶺のシャツに縋る。
 唾液の残りが付こうがどうしようか構うか。もともと高嶺の出したもんだしな、くそ!

「き、キツい……っ、無理っ」
 本当に心の底からストップを訴えていることを分かってもらおうと、高嶺の目をほとんど睨むようにして見た。
 けど、高嶺は俺の頬にキスをする。
「圧迫感あるのは最初だからだ。女の子の初めてと似たようなもんと思えばいい。絶対気持ちよくなる。してやるから任せろ」
「おっ」
 あぁ、嘘だ、本気で……
「お前はっ! 初めてで怖がってる女の子を強引に無理矢理ヤれんのかよ!!」
「………………」
 涙が、出た。

 しかも、うっすら滲むどころじゃなく、ボロボロと。
「も、……も、ついてけ、ないっ」
「……お前、本気で泣いて?」
「うっさい馬鹿野郎!! 抜けぇえっ」
「……ちょ、分かった。落ち着け」
「ひ、……あ、ウ」
 抜かれる時の感覚さえ、もう勘弁してくれと思う。

「大丈夫か?」
「大丈夫なわけあるか馬鹿野郎っ!」
 情けない。情けなさ過ぎる。
 俺のプライドはこの短時間でズタボロだ。
「……さ、最っ低だ! なん、なんでだよ……!」
「な、なんでって、何がだ?」
 俺が本気で泣き出したもんだから、ちょっとは慌て始めたらしい高嶺。ざまあみやがれこの野郎。男が泣くっつったら、そりゃあもう大変なショック受けたっつーことだぞ!

「ふ、ふつうっ、告白してっ! 両思いでっ、付き合うことになったって! その日にセックスなんてっ、ありえねえのに……!」
「………………」
「そんな、そんな、ヤりたいのかよ……っ」
 高嶺は、無言だ。何も言わない。
「好きとか……、っく、……言った、あいてっ、泣かしてまで! ヤりたいのかよ!」
「……………………」
「俺っ、だってまだ! 返事もしてねえ!!」
「………………」

 高嶺が、手を伸ばしてきた。
 俺は一瞬体をすくませたけど、抱きしめられただけだと分かって力を抜く。
 うわあ。もっと本気で泣けてきた。
「……悪かった。行けると思って調子に乗りすぎた」
「う、うぅううう」
「悪い。……お前、お前のやり方を教えてくれ。俺は分からないんだ」
 高嶺の途方に暮れたような口調は初めて聞く。
「……な、何が……分かんない、っつうんだ、よ……うぅ」
「言っただろ、初めて本気になったって。恋愛はしたことないんだよ。正直、セックスに気持ちが要ったことなかったんだ。……悪い。お前とは恋愛するつもりなのに、今までのやり方に疑問を持ってなかった」
「………………」
 今度は、俺の方が無言になる。

「夏樹?」
「……んで、お前、……んな、いさぎいーの……」
「え?」
「わかった……」
「…………え、分かった? って、何が? え?」
「やり方……教える」
「……お、おしえ……って」
「お前と恋愛する」
「……………………夏樹!!」
 俺は高嶺に思いっきり抱きしめられて、抱き潰されるかと思った。

 だって、落とされたもんはしょうがねえ……。