56<ラブラブ>

「ななな、なっちゃん大丈夫だった!?」
 ドアのインターホンを鳴らすと怒涛の勢いで光が飛び出してきてそう言った。
「だ、大丈夫ってなにガ?」
 駄目だ、声が裏返りそうだ。
「な、何って会長……っ、と、とりあえず中入んなよ!」
 光に腕を引かれて、部屋の中へ入る。
「夏樹、遅かったな」
 玄関には要もいて、光ほどじゃないけどおろおろしてた感じが窺えた。
「……ごめん、心配かけて」
 そういえば、二人の部屋に入るの、初めてだったじゃなかろうか。
 リビングに行くと、俺の部屋と同じような造りであることが窺えた。一人部屋だと一つある寝室が、二人部屋は二つあるという違いらしい。

「会長の話って何だったの!? 大丈夫!? 何もされてない!?」
「あー……うん、大丈夫……。喧嘩するなってそれだけ……」
「喧嘩? 親衛隊とかの話?」
「あー、うん、そう。なんか、それ以外もちょっかいかけてくる奴がいるなら、全部言えとかって言ってきて……」
「わお。結構頼もしいこと言ってきたんだね!」
 光は目を丸くして驚いたように感想を言った。

「………………」
 最初俺は猛反発したわけだけど。
 ……感じ方は人それぞれだよな。
「僕はまた、昨日の放送の通りに、なっちゃんを落とそうと会長が具体的行動に出てたらどうしようって思ってた!」
「………………それ、思ってたのに俺が拉致られるのを黙って見送ったわけか」
「だだだ、だって、会長には逆らえないよ!」
「会長にあんな勢いで怒鳴り返す人間はお前くらいだと思うぞ……」
 二人とも、引きつった顔で頷いて、互いの意見を肯定し合っている。
 そんな二人の様子を見て、高嶺が普段周りからどんな扱いを受けているのかがやっと具体的に想像できた。
 でも。
「……あいつ、怒鳴り返されて、喜んでると思うぞ」
 ふと思ったのは、そんなことだった。

「………………」
「………………」
「何?」
 普通の会話の流れだったはずなのに、なぜか急に返事が返ってこなくなって、俺は続けて口を開いた。
「どうしたんだ?」
「…………な、夏樹……、お前、……ある意味、神だよ」
「そそそ、そうそう! 会長にそんな、そんな大胆発言、かっこよすぎる……」
「はあ?」
 二人はよろよろとよろめいて、ソファに同時に腰を下ろした。
「何だそれ……、会長は実は隠れMとかそういう危ない話か?」
「Sだよ間違いなく。」
 思わず全力で、そこだけは訂正を入れる。
 俺がマジで泣きを入れるまで俺のノーを軽く聞き流していたあのサドっぷりは、いくら口調が優しかったとはいえ、Sと言い切って間違いねえ。

「……な、何? やっぱ何かあったのなっちゃん?」
「ねえよ……」
 俺も二人の向かいのソファに腰掛ける。
 心配そうな光の顔。
 うぅ。いかん。取り乱したらボロが出る。
 まだ、心の準備ができてないし。そんな、二人に高嶺と付き合うことになったなんて、言えるわけが……。
 あー、まだ信じられない。
 もうもうもう、してやられた感いっぱいだ。

「じゃあお話しただけなんだね、良かった……。僕もう今頃どうにかなっちゃったんじゃないかって心配で心配で……」
「ど、どうにか……って」
「いやあの、無理矢理押し倒されたりとか?」
「た、頼むからそれを俺で想像しないでくれ……」
 友達にそんな姿を想像されてるなんて、いてもたってもたってもいられないくらい恥ずかしいから。
「あ、ごめん、そうだよね……」
「まあとにかく、夏樹が無事に帰ってきて良かったよ。それに、親衛隊とかの問題から守るって会長言ってきたんだろ?」
「……ああ」
「ならしばらくは一安心か。ほっとするよ」
「………………」
 思わず、沈黙してしまう。

 今は安心していても、明日になって校舎を一緒に行動すれば、さっき一階を通った時みたいな周りの生徒の反応に二人も気付くだろう。
 昨日の段階ではまだ表面化していなかった周りの生徒の反発が、いよいよ本格化してきたってことだ。
「夏樹?」
「どうかしたの?」
「え、あぁ、いや……」
 どうしようか。

「………………まあ、なんだ。……その、たぶん……、そのうち反発には遭うだろうし……、それは覚悟してるし……、うん。大袈裟にしなくていいから」
「大袈裟って……、駄目だよ、何かされたらちゃんと言わなきゃあ」
「あー、うん、そうだな。うん、大丈夫」
「ちょ、なっちゃん怪しいんだけど」
 不安そうに呟いて光は要を見上げた。
「……夏樹、当分一人で行動するなよ? 熱狂的な会長ファンじゃなくても周りの雰囲気で一緒になってお前に反発する奴も絶対いる。味方だってはっきり分かる奴以外とはしばらく関わらない方がいいし」
「…………分かってる」
 俺は頷いた。十分過ぎる程理解してるつもりだ。
 さっきの針のむしろ状態は結構きつかったし。いや別にそんなヘコんではいないけど。

「もうほんと、体育の着替えも僕らも一緒に保健室行くよ!」
「ええ、変な図だってそれ」
「いや、それくらい警戒していいって」
「……あー、まあ、別にいいけど」
「うん、絶対そうする!」
「うーん、なんかごめんな。二人きりのラブラブ時間が潰れそうだな」
「ちょ! 気にしなくていいんだよそういうことは!」
「……ラブラブしたくなったら誰が一緒でもするよ」
「かかか、要っ!」

 真っ赤になる光。
 要はそんな光を優しく笑ってなだめている。
 ……俺の目の前でこんだけラブラブモードが始められるなら大丈夫か。
「あはは」
「な、なっちゃん何笑ってんのさぁ」
「いや別に」
「も、ちょっと何その余裕!」
「いやあ、光はかわいいなあと思って」
 言われたとおり、余裕のにやにや笑いで言ってみる。
 すると光は案の定、さらに赤くなった。

「うわっ、なっちゃんに言われたくない!」
「は? え、何その返し。俺にって何でだよ?」
「なっちゃんだって超可愛いくせに! 自分のこと棚にあげて!」
「おい待て。俺は女系一家だったし、もしかしたら女っぽい顔かもしんないけどな。それとリアクションのかわいさは別だから」
「なっちゃんの方がリアクション可愛かったりするよ!」
「はぁあ? こんな男らしくて豪快な俺のリアクションのどこが?」
「ツンテンだもん、なっちゃん!」
「だからそのツンテンって何……」
「はいはい。二人とも同じくらい可愛いから」
「えっ」
「ちょ、要」
 そんなやりとりをしていた時だった。

 ピンポーン

 と、玄関のチャイムが鳴った。