65<切ない>

「わ、あ、……ちょ、まてっ」
 いきなりだ。
 いきなり、高嶺は、ケモノになった。
「ざけんなテメっ、ちょっ」
 お前は犬かとツッコミを入れたくなるような舌攻撃。
 これは結構有効で、どう逃れようか判断をしかねている間に右腕からシャツを抜き取られている。
 ボタンは全部外されたらしい。

「え、エロジジイかお前はっ」
「んでジジイなんだよ……」
 そんな短いやりとりの間に右腕を上げ下げされて、下に着ていたTシャツまで腕から抜かれている。
 着ていた服は左腕と首に絡まって、皺くちゃだ。
「お前二年なんだからジジイで十分だっつの……っ」
「ダブリが何言ってんだ、同い年だろ」
 高嶺が胸をいじってきて、息を呑まざるを得なかった俺は返事かできなかった。

「夏樹……、夏ってくらいだから、夏生まれか?」
「だ、ったら……何っ?」
「やべえ。何月?」
「……七、月」
「うわ、お前のがちょっと年上かよ。俺十月」
「…………っ」
 そんなこと、今知らされたって、どうしろって言うんだ!?

「やめ、っく……あ」
 壁に預けていた背がずるずる下がる。
「お前が煽るのが悪い」
「んなつもりじゃっ」
 単に! 単に舞い上がってたんだ!
 甘ったるい雰囲気に酔ってたんだ!
 こんなことになると分かってたら全力で毒舌かましてたって!

「ちょっと腰浮かせ」
「ばっ」
 なんか問答無用だし!
「うわ、わ」
 ベルトもチャックも開けられて、ほぼ力任せに下ろされて、完全に空気にさらされる。
「……なんか、中途半端に脱げてんのって、そそるな」
「ど変態っ!!」
 せめてもの抵抗に、めいっぱい叫んだ。

「お前も人のこと言えねえぜ? 元気じゃねえか」
「だっ」
 さんざ人の体いじくりまわしといて、その結果イコール俺も変態とはなんつう言い草!?
「ひ、さわっ……んなっ」
 けど反論も頭を過ぎるだけで口から出てこない。
「触んなきゃ始まらないだろ」
「……っ、は、はじめ……なくて、いっ」
「冗談。始めなきゃいつまでたっても慣れねーだろ。痛い思いはさせたくないしな」
「…………っ」
「なるべく」
「なるべくっ!?」
 俺のツッコミに高嶺は笑顔を返してきた。

「うっ、あ、あ、……たかっ、ぅ、はぁっ」
 完全に、床に背中がついている。
 上に覆いかぶさっている高嶺をどかして逃げるとか、もうそんな行動ができる段階を完全に超えていた。
 正直に言って、もう、体が止まりたがってない。
 でも頭は、そんな体の状態についていけてない。
「や、め、……あ、ちょ、はや、……う、ちょぉ、はずっ」
 そんなそんな。
 なんでだよ。
 いつの間にこんなことに。
 いや何されてもいっかなとは思ったけど。
 でもあの甘々ムードの延長なら耐えられると思った感じであって、こんな、なんか凄ぇ荒いっつーか早いっつーか切羽詰ったの、いっぱいいっぱいで訳が分からない。

 高嶺の腕にしがみ付いて、ぎゅうっと目を閉じた。
「う、うぅ、……は、あ、いくっ」
「あ、それストップ」
「…………っぁ?」
 いきなり刺激が止まって思わず目を開ける。
 高嶺はこつんとおでこを重ねてきて、俺の髪を一度すいた。
「ちょっと待ってろ」
「は……ぁ?」
 待ってろって待ってろって待ってろって……この状態で!?

 今にも楽になれそうって時に放り出して行くか!? 普通!?
「も……なに、おまえ……」
 どうしようもなく切なくて、俺は丸くなってぐったりと床に脱力した。
 もしこれが自分の部屋で一人だったら、間違いなく無我夢中で自分で最後まで頑張ってたっつうの! 一人だったら、高嶺に見られさえしない場所だったら!
 てか、今でも出来るなら自分で最後の一押しをしてしまいたい。
 それくらい、マジで切ない……。

「大丈夫か?」
「……てめー……鬼……っ」
 戻ってきた高嶺を見上げて、恨みの言葉をぶつける。
「はっはっは。そんなにイキたいのか? エロいなあお前」
「て、てめ! もっ、クソ、ドS野郎っ」
「はいはい」
 高嶺に肩を押されて、横に丸まっていた体を再び仰向けにされる。
「っな」
 足を、思いっきり抱え上げられた。

「いや、ちょ! 何しっ」
 ぬる、と、奥の方に変な感触。
「ななななな、何やって!」
「ちゃんとソレ用のローション。やっぱ人間の唾液じゃ滑り悪いからな」
「はあ!?」
「昨日程、キツくは感じないはずだから」
「は、え、ちょっとまっ」
 思わず。
 息を詰めた。
「……っ、……イ、……ちょ、たかみ」
「大丈夫。一本だけ。今日は増やさないし。安心しろ」
 あ、あ、あ、安心しろって、安心しろって!
 人のケツに指つっこんどいて安心しろってどういう論理!?

「あー、この辺か?」
「なっ、にが!?」
「前立腺」
「はっ!?」
 高嶺はさっきから、似たようなところで指先をうろうろさせている。
「前立腺だよ。これがあるから男は後ろでも気持ちよくなれる」
「ちょ、ちょっと待て! お前何する気っ」
「後ろの開発」
「てめぇえっ」
 身も蓋もなく言い切った高嶺がものすっごいムカつく。俺の男としてのプライドとか普通もうちょっと気遣ってオブラートに包めっつーの!

「本番の時痛いだけじゃ嫌だろ?」
「な、な、なん」
「いいから。ここ。俺が触ってるとこらへん、意識集めてみろって」
「……、……っ」
 訳が分からなすぎて、泣けてくる。
「深呼吸。ほら、吸って、……吐いて」
 つい、息を深くして。
「……う、ううぅぅう」
 なんでか言うとおりにしてる自分が意味分からない。
「ん?」
「……っ、……あ、クソ……」
 ふと頭をもたげてきた感覚に、妙な敗北感を感じた。