序章
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69<様子>

「……もしかして、味方がどうとか、嘘八百だったりする……わけか」
「本当だよ」
綾瀬はそう言って立ち上がった。
「僕らは佐倉君に味方する。僕らが親衛隊の報復に遭ったっていうのも本当だから、ちゃんとそのこと教えてあげるよ。だから、君も僕らに味方してくれるよね?」
「…………」
頭の中で、何かがヤバイと告げてくる。
「基本、僕らが佐倉君に劣っているなんて考えられないんだよね。会長を落とすのに一体どんな手を使ったのか、教えてほしいんだ」
「な……」
「僕らの味方だろう? 佐倉君」
綾瀬はゆっくり近付いてきて、俺の隣に腰を下ろした。
少し狭いが、玉置と綾瀬に挟まれる形になる。
逃げたほうがいいのは分かるけど、目の前にローテーブルがあるし、両側を押さえられたのでは、どっちかを突き飛ばすか蹴り落とすかしないとどうにもなりそうにない。
けど、最初に手を出す側になるには綾瀬も玉置も軟弱そうで気がひける。
「味方……っつーか、マジ意味分かんねぇ……。落として落ちるタイプかよ、あいつ」
「……あいつ? へえそう、そんなに仲良いんだ。会長が勝手に惚れたってこと? 僕らがどんなにアピールしても駄目だった会長が? それは僕らに対する侮辱だよ。ねえ」
問いかけられた小倉は無言で綾瀬の言葉を肯定したみたいだった。
「自覚あるの? 君すごくダサいよ? 前髪暗いし眼鏡気持ち悪いし。努力で変えられる部分さえ努力しないような子に僕らが何かで負けてるわけないじゃないか」
「いや、ちょ、近すぎっ」
隣にいる玉置のせいで下がるにも下がれず、近付いてくる綾瀬と距離が縮まるのを食い止める手段がない。
「……え、ちょっと。……ねえ。まさか」
「マジで近いしっ」
俺は数々の例を繰り返す事態だけはさげようと、両腕を顔の前で交差させて眼鏡をガードした。
「お前っ! ちょっと! その眼鏡外してくれる!? 冗談じゃないっ」
綾瀬の声はかなり引きつっている。
近くで見られたせいで勘付かれたのかもしれない。
もう再三言われたせいで納得せざるを得ない、自分の女顔。
「佐倉っ」
とうとう呼び捨てかよこの野郎とか思いながら交差させてる腕に力を込め、緊急事態だから仕方ないと綾瀬を蹴り飛ばそうと足に力を入れようとして、急に広くなった視界に呆気に取られた。
「お前……っ、なめやがって」
「……え」
呆気に取られている間に、眼鏡を取られたらしい。
前髪をがっと掴まれて、俺はさっきまで顔をガードしていた腕が、後ろから玉置に押さえられているのに気付いた。
「な、なん」
そんな筋力があるようには見えない。なのに腕は全然振り払えそうにない。
「なんでわざわざ隠してた!? 馬鹿にしてるのか!?」
「いや、待て、ちょ、何だ、は? え、なんで」
身を乗り出してきた綾瀬が自分の体重を支えるのに手を置いているのが、ちょうど俺の膝の上だ。
それだけで足がぴくりとも動かない。
綾瀬を蹴り飛ばそうとした俺の意思は体のどこにも伝わっていない。
「男避けでもしてたつもりか? そうか。その顔のせいで男に迫られたことでもあるんだな。それでこの学校に来る時に隠した方がいいとか思ったって?」
「ん、んなわけあるかっ」
女顔だの何だのと言われだしたのは、この学校に来てからだっつうの!
それまでは、健康的なウェイトのある、日に焼けてもっと黒い、どっちかっつーとカッコイイと言われる方の……!
「あーっ、もう!」
そんなこと、今さら思ったってしょうがない。
「てか何なんだよ! こいつの怪力っ、びくともしねぇっ」
振り払おうともがくのに、結果は同じ、だ。
「……まだ気付いてないの」
綾瀬はふっと口を歪めて笑った。
「ちょっと薬を仕込んだだけだよ。紅茶にさ」
「……く、薬!?」
「そう。何の為に味の濃いローズヒップにしたと思ってんのさ。ちょっと筋肉の収縮を鈍くする薬をね。大丈夫、ちょっと動きにくくなるってくらいの量しか入れてないから」
「……は、はァ!?」
意味が分かんねえ!
薬!? 毒!? も、も、盛ったってことか!?
「死なれても困るし、犯罪者にはなりたくないから、ちゃんと量には気を付けてるよ。安心して」
「できるかボケっ! 十分犯罪だ!!」
ままま、まさか自分が薬を盛られる日が来ようとは想像もしてなかった!
「な、なん、何なんだよその薬っ! そんなっ、多く飲んだら死ぬ系の!?」
「あはは、大丈夫。市販されてるくらいだし。君が飲んだのは、動くに支障なくても力は入れにくくなる、って程度。僕らにはそれで十分だし」
「アホか! 待て! 何当たり前みたいに説明してんだ!? マジで犯罪だっつーの! 今はなあ! 未成年だって法律が強化されてっ!」
「お前ちょっと黙れよ」
「んぐ」
思いっきり口を塞がれたせいで変な声が出る。
「……自分の立場と状況分かってる? ここまで来て震えもしないで説教してくる奴は初めてだよ。君、顔は綺麗だったみたいだけど、馬鹿なんだ?」
「んううウぅっ」
「大体、こんなことで僕らが捕まるわけないじゃないか」
「……う」
そうだ、ここの学校の生徒は金持ちとか、そういう、力のある家の奴が多いんだ。
揉み消されるのは必至ってことか。
「……本当、冗談じゃない。何、その顔。相当ムカつくんだけど」
「………………」
段々と、綾瀬の言う立場を理解してくる。
これは、ヤバイ状況なんじゃないだろうか。
暴力? 暴力に入るのか? なんかその、過呼吸とかフラッシュバックとか起こしうる要素なのかこれは?
だとしたら相当恥ずかしい醜態を晒すことになる。それだけは絶対に避けたい。
いやでも、綾瀬たちは、高嶺や五十嵐みたいに圧倒的に強そうとかいう見た目でもないから大丈夫か?
「その顔で色目でも使ったってわけ?」
「ふぅう! うう!」
質問するなら口を塞ぐなっつーの!!
「そういうことすると、どういう報復される決まりなのか、教えてあげるよ。約束だったもんね」
綾瀬は顔を歪めるようにして笑った。苦しそうな笑み。
それから俺の口を塞いでいた手を離して、俺のネクタイを外し始める。
「おっ、おい! てめえ! ざけんな張っ倒すぞ!」
「何その言葉使い。その体で出来るもんならやってみるといいよ」
「ちょちょちょちょちょっ」
ネクタイはあっさり外されて、それを受け取った玉置が腕を後ろでぐるぐる縛り始める。
「まままま、待てよ! マジで!? なに本気になってんだよ!」
「大丈夫。ちょっと僕らと同じ体験するだけだから、大したことないよ。僕らだって今元気だろ?」
「な……、な……」
どうしたらいい。
こいつおかしい。
笑顔が、妙に歪んでる。
なんで笑ってるんだ?
「歯、食いしばんなよ」
ぺたぺたと頬を触られた直後、視界が飛んだ。
「……ぅ、っぁ」
殴られたんだと気付く。
以外に強い力。思いっきり殴ったんだろう、痛そうに手を振っている。髪を掴まれてソファの上に引き倒された。
「教えてあげようか。僕らがされたこと。あぁ、小倉は違うんだけど。会長のこと、凄い好きなくせに、勇気出なくて告白してないからさぁ。僕ら小倉なら会長も応えてくれると思ってたのに、あーぁ、変なのに泥棒されちゃって」
「………………」
「勇気出した僕らはね、僕と玉置は……暴行、されたんだよ」
髪を掴んだままの手に力を入れられて、痛みが走る。
「縛られて。殴られて。犯されて。まわされたの。輪姦。分かる?」
「……ぃ、った」
さらに髪を引っ張られて、声が出た。
「痛かったよー? 愛なんて全然ないんだもんね。佐倉君はまだいい方だよ。タチも両方出来るの玉置だけだからさ。少なくとも輪姦じゃあないからねぇ」
あぁ、なんかもう、どうでも良くなってきた。
「でもその代わりに佐倉君にはオモチャ使ってあげる。僕らが苦しんだ時間分はちゃんと再現してあげるからね」
「…………」
「あれ、どうしたの? 威勢がどっか行っちゃったね」
ぱしぱしと頬を叩かれた。殴られた跡だから、ちょっと痛い。
痛いけど、仕方ない、我慢するしか、我慢しないと。
だって、夕香が。
「……ぇ、……あれ」
ふっと拡散してた意識が戻ったみたいに疑問が浮かぶ。
俺、なんで、今、夕香?
「どうしたの? 大丈夫? 君、変だよ」
お前に言われたくない。
「………………」
どっかで冷静な頭がそう言うのに、もっと中心にいる、なんか根本的な俺はそんな言葉に見向きもしないで何か訴えている。
「……よ、ぃ……、けば……たす、か」
あ。
何。嘘。何か今、え、有り得ないのが思い浮かんだ。
穴から顔を上げたら、目が合って。
「あ、あぁぁ」
「何だよさっきから! うざいなぁっ」
痛い。また同じところに、痛み。
「う、うぁ、ねぇ、ねぇ、ちゃ」
「姉ちゃん!? 何それ! お姉さんに助け求めてんの!?」
ちがう。だって、もういない。
いないんだ、家族は。
死んだんだ。俺だけが、助かって。助けられて。
「ごめ、なさ、ごめ」
「うわ、謝ってんの? 急に無様だねぇ、会長に見せてやりたいよ」
埋まってく、穴の、中に……
「うぅぅうぅーっ!」
「うるさいなあ。小倉、なんか口塞ぐもの探して」
「…………ぁ、うん……」
小さな返事。夕香? どこに? 暗くて、よく分からない。
「………………」
かえして。かえして、お願いだから。夕香だけでも。
まだいきてる、ゆうかだけでも。
「あ、あぁ……ぁ……」
「あ、綾瀬くんっ、なんか様子変だよ……!」
ここ、どこなんだろう。



