81<めちゃくちゃ>

「……ぅあ、あ」
 高嶺は火がついたみたいに俺を襲い始めた。
「……なつ、きっ」
 俺が挑発したんだ。
 そんなこと出来ないなんて言われた時には、俺はもう高嶺を安心させる方法を失って、途方に暮れるしかなかったわけだから、少しホッとしてたりもする。
 思いついたやり方のがコレだけってのも、俺も随分間抜けだとは思うけど。
「あ、っく、……そ、んなん、じゃ……っ、一緒っ」
 高嶺は乱暴に舌をあちこちに押し付けてくる。けどそれくらい昨日も一昨日もされたし、なまっちょろいと俺は訴えた。

「夏樹っ、ホントに、めちゃくちゃにすんぞ……、いいのか……っ?」
「し、しろっつってん、だろっ、馬鹿っ」
 高嶺はちっと舌打ちをして、急に俺を抱きかかえた。
「うわ、ちょ、何っ」
 落ちないようにとっさに高嶺にしがみ付いて尋ねても高嶺は答えない。
 部屋の方に向かってるからベッドにでも行くつもりなのかと思ったら、高嶺は途中で折れて、洗面所に入った。
「な、に、うわっ」
 いきなり下ろされたのは風呂場で、意味の分からなさに視線が彷徨う。

「お前の部屋、ローションとかねえだろ」
「え、ろーしょ……」
「ソープで代用な。……何も無しでしたら、怪我させる」
「あ、うわっ」
 しゃあっと音がして飛んできた水に思わず顔を背けて悲鳴を上げた。
「すぐお湯になる」
 高嶺はシャワーのコックから手を離し、シャツを脱ぎ捨てて俺の目の前に立った。

「泣かせとか簡単に言うけどな、お前の場合、フラッシュバック起こさせたら一発なの分かってるか」
「……そ、それは上手く避けろよっ。俺が記憶飛んだら意味ねえだろっ」
「むちゃくちゃ言うな」
「ドS根性出せよっ、男だろっ」
「M役やるつもりなら、泣かせて下さいくらい言ってみろ」
「な……」
 あんまりビックリして、固まってしまう。
 そういうのは、予想外だ。
 てっきり、優しいのとは逆方向に思いっきりやられるくらいしか想像してなかった。

「言葉攻め、すぐ泣いてくれそうだしな。言ったことあったろ」
「な、泣くかよっ、そんなことくらいでっ」
 俺だって男だ。気だって強い方だと思ってるし、言葉攻めで泣くなんて、なんか傷付けられた気分になんねえしっ。
 思いっきり泣き喚くくらいのことされても高嶺のこと好きだって言えると俺は証明したいんだ。
「ってあぁっもう!」
 なんだ俺のこの変な思考回路は!?
「泣かせてクダサイ! これでいいか!? ふざけんなっ、びびってんじゃねえよ! 泣かされたって、俺はお前が好きなまんまだよ!」
「…………っ」
 高嶺はぐっと拳を握った。

「シャツ脱げ」
「…………」
「脱げよ」
「……っ」
 シャワーで体に張り付いたTシャツを俺は無言で自ら脱いだ。
 床に投げ捨てて高嶺を見上げて睨む。
 まだまだびびってなんていないと言うように。

「言っとくけど、俺もびびってるからな」
「俺はびびってねえ」
「俺はびびってる。……お前の言うコト、信じるけど、怖いもんは怖い。もしやっぱり嫌いになったとか言われても、俺はもうお前を手放してやれねえからな」
「手放さなくていい」
 俺はなんでか挑むような口調になっている。
「……他に方法ないのか。俺たちどう考えても変態だぞ」
 風呂場で、ジャージとスウェット姿の男が二人、半裸でお湯に打たれながら今からセックスしようと向かい合っている。
 しかも、なんかハードそうなの。
 たぶん、高嶺の言うとおり、変態だ。
「うるせえなっ、思いつかねえもんはしょうがねえだろっ。口だけじゃお前、頭で納得しても気持ちでずっと引きずるだろがっ。人の裏表とか苦手なくせにっ、言葉だけで本心、気にせずにいられんのか!? 傷付けたら宮野先輩んとこ行っちゃうんじゃないのかって、お前がずっと不安に思うのは嫌だっ」
「俺の為に、自分を投げ出すってのか?」
 高嶺はまだ動こうとしないまま、俺の目の前にただ立っている。

「お前、言ったじゃん。俺のこと守るって。だから怖いことなんか何もないって。……俺だって同じ気持ちだっつったら分かんだろ。お前が怖いなら、怖がる必要ないって証明してやりたい。体張れば証明できるっつーならいくらでも張る」
 あああ、なんか興奮してるから平気だけどっ、通常時なら恥ずかしさのあまり憤死してるセリフだな俺!
「……終わったら、俺たち、何か乗り越えてると思うか?」
「し、知るかっ。これが乗り越える程の壁かも分かんねえよっ」
「…………分かった」
 わずかな沈黙の後、高嶺はそう言って脱衣所に消えた。
「…………何」
 どうする気なのかと思ったら、手にタオルを何枚か握って戻ってくる。

「俺、お前に甘えるよ。……甘えさせてくれ。……消して欲しい。こんな怖い想像、俺が動けなくなる前に否定してくれ。俺が何か失敗しても、好きでいてくれるって、離れないでいてくれるって、嘘じゃなくてホントなんだって俺に分からしてくれ」
「……ああ」
 俺が答えると同時に高嶺は床に膝をついた。
「手、出せ」
「……ん」
 意図も分からないまま右手を突き出すと、高嶺はその手首にくるっとタオルを巻いた。
「そっちも」
「……縛んの?」
 尋ねながら、俺はもう答えも待たずに左手を差し出している。

「めちゃくちゃにしていいんだろ」
「……ん」
「ぱっと思いついたのがコレなんだよ。文句あっか」
「…………」
 両手首に巻かれた白いタオルを見つめて、俺は腕をよじってみた。けど、降り注ぐ湯に濡れたタオルは全く解けそうにない。
「……はは、ドキドキしてきた」
「お前変態の素質あんな」
「縛った本人に言われたくねえ」
 俺たちは真面目な顔をして軽口を言い合う。
 無理矢理言い合ってるのがお互いに分かった。
 どっちも緊張してる。

「目隠しとかも、してみるか?」
「してみるって、何それ……」
「その方がめちゃくちゃ度合い増すかと思って」
「……あとで」
 俺は答えた。
「あと?」
「べ、別に目隠しくらい……怖くねえけど、最初っからしなくてもいいだろ」
「怖いのか」
「べ、別にっ」
「決めた。する」
「ちょっ」
 人の話を聞いていたのかとツッコミを入れる前に、視界が覆われた。
「たっ、たかみねっ」
「嫌がることやった方がめちゃくちゃって感じするだろ」
 そ、そりゃそうだけど!

 タオルなんて太いもので目隠しをされたら、上下の隙間もできやしない。おまけにタオルが水気を含んで、頭が重い。
 完全に何も見えない。
「はっ、ハードルたけぇ」
「もう泣きそうか?」
「こんなんで泣くかっ! わっ」
 縛られた腕をぐいっと引かれて、どうやら水道の蛇口あたりにくくりつけられたらしい。
 音もシャワーの音でかき消され気味で、高嶺が次に何をする気なのかほとんど分からない。
 腕をくくりつけられた蛇口のところから動くこともできずに、されるがまま。
 めちゃくちゃに抱かれるって、こういうことか。

「……たか、み、っンく」
 いきなり左のを摘まれたせいで、体が思いっきりビクつく。
 予測不能ってのは、激しい。
「は……、たか、みねっ、んゥっ」
 すぐ間近に高嶺の気配を感じたと思ったら、耳に息と熱。音が入り込んできて、背筋を何かが這っていった。
「……ふ、……っは」
 こんなんでコレって、俺、どうなる……。
「初めては、優しくしてやる計画だったんだけどな……」
 そんなことを言われても、今さら何にもならないって、マジで。
「クセになったらどうすんだ……」
「あっ、……ゥ」
 声が少し下に移動したとは思った。けど、次にそんなとこを舐められるなんて思いもよらなくて、ホントに見えないのがどうにかなりそうだ。
 女じゃあるまいしっ、平たい胸吸って何になんだよバカ嶺っ!!

「……っふ、ぅ……っぁ、は」
「口は塞いでねえんだから、もっと喘げよ」
「ぅあさしゃっ、喋んなっ、すぃ、ながら……っ」
 呂律が回ってない。呂律っつーかもう、それ以前の問題だ。
「お前のツッコミ、どうすればいいか良く分かる……」
「ぅうあ」
 高嶺はまた同じことを繰り返した。
「……は、……ぁ、……なに、これ……っ、めかくしっ、はんぱ、ね……っ」
「お前、媚薬でも飲んだかって勢いだな」
「は、ぁっ?」
「すげぇ、そそる」
「ンぁっ!」
 思いっきり吸われた後、がこんと音がして、高嶺がシャワーをホルダーから外したらしいのが分かった。