82<安心>

「ン、な……っ、何す……っ」
 シャワーの湯が、意図的にそういう場所へ当てられてるのは目が見えなくても気付く。
「なんだ、シャワーなんかで感じるのか? 体洗う時どうしてんだよ」
「て、っめ」
 言葉攻めとやらをやる気だと悟る。
 ふっと水圧が消えて、シャワーの音があちこちに霧散し始めた。
「……なん、だよ」
 見えないから、高嶺が何をしてるのか分からない。
「なにしてっ」
「面白いこと」
 ごとん、と何か重いものを床に置くような音がした。

「うあっ、ひ、……なにっ」
 いきなり、湯のかたまりが飛んできた。
「シャワーのノズルなしな。ホースみたいにしてる。指で先のとこ、湯の出口狭くしたらどうなると思う?」
「………………」
 想像したら何も答えられなかった。
「こういうプレイ、お前にできるのはまだまだ先だと思ってたけど」
「なんっ、てめ」
 俺がめちゃくちゃにしていいとか許可出さなくても、いずれはやるつもりだったのかと、咄嗟に問いただそうとして、できなかった。

「っは、あ、やめっ、あははっ」
 つい笑ってしまったから。
 だって、ピンポイントのお湯は、シャワーの時より勢いこそ強くなったものの、狙いが定まらないらしく、くすぐったさしか正直ない。
「動くなよ」
「むむ、むりっ、くすぐってぇ……っ、はは」
「てめえ……」
 高嶺の声が近付いてきた。
「絶対泣かす前に、鳴かせてやる」
「え、なかす前になか……? っわぁあ」
 いきなりあったかい水流が足に流れてきて、びびった。
 風呂上りにはいてたスウェットの中に、高嶺は直接ノズルを入れたらしい。
「水遊びしてんのかっ」
「まさか」
「っぁ」
 ふいに上からもろに掴まれて、声が出た。
「いっ、あ、そ、それ反則っ」
 高嶺の目的は、色々すっとばしてそこを直接刺激することだったらしい。
 直接掴まれて近距離で狙いを定められたら、あとはもう、強い水圧から逃れられるはずもない。

「ひっ、あ、ア、あ」
 止めたくて仕方がないのに縛られて動かない手がやばくて、余計、熱くなる……。
「だぼだぼのスウェット、柔らかくて上からでも掴みやすくて、いいな」
「イ、ぁ……、も、あっ」
「ゼロ距離射撃、クるだろ?」
 ななな、何言ってんだ……! マジで変態っ、この野郎……!
「ふ……くぁ」
 めちゃくちゃっつってもっ、もっと色々あるだろが! なんかっ、プレイ的な意味じゃなくてっ、勢いとかっ、丁寧さ省くとかっ、む、無理矢理っぽい感じとか!
「ン……は、ぁ、っは」
 おお、俺じゃなくて! 高嶺が気持ち良いこと優先させる的な! 初めてだとかそういうの脇に置いといてとっととコトに臨む的な……!
 こんなねっとり感じさせられるとかっ、もたない! 死ぬって!
「あっ、いや、ちがっ」
 かかか、感じてるとか違うっ、こんなん気持ち良いとか違うっ、こんな、お湯当てられてどうこうとかっ、違う……!
「……その反応、マジで理性やべえよお前」
「ンぁっ」

 耳元に、熱が生まれた。
「これ、マジで俺がクセになるわ……」
「ぇ、っあ、ぅああ」
「……素直に反応してくれるとこ、こういう時も健在でマジ最高な」
「ぅあ、っハ、アぁ!」
 体がはねるのが止まらなかった。
 はじけた、って、頭で思ったのはそれだけだ。

「……イったな」
「は……ぅ、は」
「余韻にひたってる場合じゃねえぞ」
「ん……」
 何がどうなったのか分からないまま、言われたことを理解しようとして。
「ッ! アぁっ、イあぁッ」
 終わったばっかの先にすごいのを当てられて、色々まっしろになった。
 キツすぎる。

「イぃい、っあ、あぅ、ア、……っイ、ゃ、ぁあ」
 くるしいっ、逃げたい……! たかみね!
「ッ、ア……、や、ッはっ」
「……ごめん、飛ばしすぎた」
 急にぎゅっとぬくもりが体を覆ってくる。
 とりあえず楽になって、息が吐けた。
「……はぁっ、はっ、ハ……」
「でも、お前が言ったんだからな」
「は……、ぁ、たか……み」
「泣かせろって」
「うッ、あ!」

 だめだ!
 だめだって高嶺っ、いくら何でもっ!
「うぅうぁ、っ」
 み、みずあそび……っ。な、泣かしてもいいからっ、最初はそれでいいじゃん、な? なぁ、それにして。むりだ、変になる。
「イったばっかって、敏感になるもんな?」
「ひ……、ぁ、はっ」
「俺のこういうとこも、ゆるしてくれんの? なぁ」
「ぁ、たか……みっ」
「俺がお前にとってベストじゃなくても、良くなくても、変わらないか? 俺はどうやってお前を落としたんだろうな。道、間違えてないよな? 手が震えそうなんだけど」

 目が見えないからか、声はよく聞こえるのに、言葉が聞こえない。
 でも高嶺が不安そうなのは分かる。だけど、何をどう言ってるのか、俺が追いつけない。
「……っか、みね」
 でも不安そうなのは嫌だ。
 何でもいい。
 何でもいいから、俺はいいよって言うから、怖がるなよ。
 俺のそばでくらい、安心してろよ。
 俺がそうできるのと同じように、お前にもそうさせてやりたいんだ。
「……だぃ……じょ、ぶ……」
「夏樹?」
 あぁ、高嶺の声が聞こえる。

「ぃる……から、……っ、ハ……、ここ……っ、ぉまえ、の……そば……っ」
「………………」
「ン、ぁ……、あ、……か、みね……すき、だ……」
「……おまえ」
「……から、……いい。……おも……、ぅよ……に、……いい」
 あ、と思ったら、高嶺とキスしてた。
 固まってた体がゆるむ。
 がたんと音がして、水音が遠くなった。
「……なつき。……むしろ俺が、泣かされそう……」
「は……、え? なん」
 今なんて聞いた?
 高嶺が泣かされそう? だれに? ……おれ?
「……みてえ」
「無理」
 拗ねたような声が耳元をかすめて、高嶺の指が腰に来たのに気付いた。

「あ、ちょ」
「もう聞かねえ。お前の声凄過ぎてな、ホントに大丈夫かっていちいちビビってたけど、もういい加減、お前のイヤイヤは一切無視だ」
「えっ」
 ってどういうことだ!?
 意味を理解する間も、思った疑問を口にする間もなく、ぐいっとまとめてずり下ろされて、いたたまれないソワソワ感が広がった。
「おま、ムードのかけらもねえっ」
「ムードが欲しいのか。この状況で」
「そういう意味じゃっ、あ!」
 本当に、ムードもへったくれもない。
 うしろに指を這わされて驚いた体が逃げを打とうとして、床の湯で足がずるっと滑った。
 水道にくくりつけられた腕に体重がかかる。

「さっきのエロい反応どこ行ったんだオイ」
「はっ!? なにがエロいって!?」
「あー、俺が頑張ればいいワケね」
「何だよ!?」
「んー、ボディーソープこれか?」
「ぼ」
 高嶺の言った単語はさっきの言葉を簡単に思い出させた。
 ソープをローション代わりにするって、……あー。
「生徒会室じゃ結構良さげだったから、その点は安心だな」
「……あ、あ」
 何かちっともまともなコメントが浮かんでこないんですけど!
「照れ隠しはもういいから、喘いでろ」
「なっ、あっ」
 ぬるっとした感触が有り得ないとこに来て、頭が何色か分からない色で染まった気がした。