83<序の口>

「……か、みねっ。たの、むか……らっ、めかくしっ、はずしっ」
「いやだ」
「っ、う……ぅ」
 拒否の三文字をハッキリ言葉にされて、頭がおかしくなりそうになる。
 どうしたって想像するだろ?
 今でさえこんなんなのに、さらに追い詰められたらどうなるか。
 考えただけで思考が停止して体が固まる。
「たか、みね……っ、っは、ど、どどど、どうしよっ、……っは、はぁ、俺っ、いみ、わかんねっ」
「だいぶテンパってんなお前」
「なにっ、なにがっ、あっ、……うぁ、ちょ、俺っ、とぶっ、ヤバイって!」

 縛られてるってのとか、ホントまじで半端ない。
 いつでも抵抗できるとか、限界になったらいつでも制止できるとか、そういう余地が残されて身を委ねるなら、そのつもりがなくたって心のどっかはその保険に安心してられる。
 けどこの状況はそんな余裕は一切省かれて、何がどう限界でも受け入れるしかない状態で。
 しかもその限界がもうかなり目の端にチラついているとなったら、頭がパニクるのは時間の問題だ。いや、既に時は遅いのか?
 自分がパニクってるかどうかも分からない。
 重症だ、たぶん。

「……っ」
 そんで高嶺は中で指っ、好き放題にしてくれてるし……!
「この辺、だったか?」
「ふっ……、う!」
「後でなら取ってやるから」
「は……、あ、あとっ?」
「俺だって見たいさ。お前の涙目」
「な、なん……」
 涙目なんてとっくに何回も見せてる気がするけど気のせいか!? 最近涙腺おかしかったし、お前、見放題だったじゃねえか! 今さら何だよ……!

「あ、ぁ、あ」
 頭の中では盛大にツッコミを入れてるのに、全然口から出てこない。
 息が乱れすぎて、声を言葉にするなんて不可能だ。
「……アっ、ぅく!」
「ん? 指増やしたの分かった?」
「あぁ、っは」
 そんなんっ、見えてもないのに分かるか……!
「ここだよな。さっきからビクビクしてる」
「ぁいっ、ッは、はァっ」
 ここ、どこだ、いま何時、おれは何をして、今なにがどうなって……
「もしかして、腰抜けてるのか? すげーぐったりしてる」
「っふ」
 低音の声が耳から入ってきて、心臓がぎゅっとした。

「……あ、……っか、みね……っ、ぅあ、っは、……どこっ」
「慎也って呼べよ、こういう時くらい」
「あ、しん、や」
 うわちょっと待て!
 思考が追いついてないから口にしてから気付くのもアレだけど!
 すげえ素直に応えてる自分が超嫌だ……っ!
「ンぁっ! っぅあ! っちょ!」
 耳から水音がする。何が起こったか理解するのは全部、数瞬遅れてからだ。
 耳を、舐められてる。
 舌が、中に、音を……。
「はゥっ、ンっ、ぁ!」

 体が勝手に動く。俺のなのに、何かが勝手に駆け回っている。
 背中が好きなのか、そこに居座ってぞくぞく動くから、仰け反るしかない。
「……ひ……っく、ぁ……だっ、だめ、だっ……って! も、むりっ」
「無理とか言うの早すぎ。これからだってーの」
「いやっ、マジでっ! 話ちげえっ!」
「は? 何がだよ?」
「だ……って!」
 俺が言ったのは泣かせてみろとかっ、めちゃくちゃやっていいとかっ! そういうことであって……!
 これ絶対めちゃくちゃじゃねえし! めちゃくちゃっつか、じっくりだし!!
 じっくりねっとりまったり! こっちはこんなに焦ってんのにまったりコト進めてんじゃねえよバカ嶺っ!
「やんなら早くしろばっかやろぉっ!」
「………………」
「うっ」

 抜かれたのはすぐに分かった。
「……夏樹」
「……は、なにっ」
「焦らすな、って解釈でいいんだな?」
「は、じ……?」
「お前はマジでストレートだな」
「は? あぅわっ、あ!」
 中で好き勝手に動く指がなくなって、ようやく言葉が話せるようになったと思ったのに、そんな時間は長くなかった。
 そこに何が当てられてるかなんて、考えたくない。
「…………え、え、えっ、と」

 あぁ、やっぱそういうことなんだよな。
 やる、って、具体的にそういうことなんだよな。
 いや分かってたよ、分かってたって。いやでも、分かってたのに本番数秒前になって初めて実感するって俺バカか?
 覚悟って、現実見てから初めてできるもんだよなぁ。
 今現実が見えた俺に、覚悟なんて決める時間はあんのか? 高嶺?
「いれんぞ」
「あ……」
 ないに決まってるよな!!

「……ッ、っく!」
「……っ、せまっ」
 吐息交じりの高嶺の声が聞こえた。
「……あっ、きっつ」
「力むな……っ、ちから、ぬけ……っ」
「ン、なこ……とっ」
 言われてもどうすりゃいいかなんてサッパリ意味不明だ……!
 あああ、こんな瞬間が自分の人生で訪れる時が来るなんて想像もしてなかった! ってか結局俺こっち側で納得してるし!
「ぅうう」
「こっちに集中しろ」
「いっ」
 前を握られて、ぴくっと肩が動く。
 消えない後ろの圧迫感をうやむやにしようと、背中で暴れていたのが中心に戻ってくる。

「……ぁ、っは、ハ」
「なつき……」
「ん、ぁ……か、みね?」
「入った……」
「は、はい……?」
「動くぞ」
「え。……ッ!」
 息が詰まった。

「わぁたっ、はァっ、あ、あ、アっ」
 意味が分からない。
 頭が、世界が揺れてる。
 いろいろ回ってる。
「ぅあああア、あ、あぁ」
 重い? なんだ? からだが、腰が……、なにかに沈んでる、どろどろの、ふわふわの。
 あぁ、何言ってんだ俺?
「フあっ、あッ、ンぅ、っくぅ」
 声が声がっ、抑えるとかじゃなくて! 押し出されて止められないっ!
「とっ、とめ、とめっ、……うあっ、アっ、いやっ、もだめ、だ、ぁっ、むりぃっ」
 キツい、痛い、でもなんか、くる。
 ぜんぶかき混ざって、ふり乱れる。

「ちゃんと……、痛いだけじゃ、なさそうだな」
「ぃいあ、ぁはッ、はっ」
「すげぇ声……。興奮する」
「ンぁあっ、やっめ!」
 そんなっ、耳元とかマジでやめて! 死ねる気がするから!
 頭の中でぞくぞく、って文字が浮かぶくらい、体全部そっちにもってかれてる……。
「……こんなの序の口なわけだけど」
「っは、あ?」
「じゃあ、やるぞ」
「ぅっあ……、なにっ」
「めちゃくちゃ」
 また耳の中に囁かれた。