88<通知>

 メッセージの通知が来た。
 しかも2件。
「うわ……」
 高嶺と、……篠原だ。
 とりあえず篠原は面倒そうなので、高嶺のメッセージを開くことにする。
 ――体大丈夫か?
「………………」
 ……それだけ?

「あれ3日前だぞ……」
 どんだけヤワだと思われてんだ?
 しかもたった一言って。せめてもうひとつ何か……。ハテナマーク含めて6文字なんですけど。どうツッコミ入れたらいいですか。
「えー? 何か言ったー?」
 体育が終わって再び保健室で着替えている最中の光が仕切りの向こうから問いかけてくる。
 俺は既に済ませてソファ待機だ。
 丸山先生は職員室に用事とかでいない。

「あー、独り言。何でもない」
「あはは、おじいちゃんだ」
「……確かに一個上なのは認める」
「えー」
 そんな切り返しをしながら、高嶺への返信はひとまず置いておいて、篠原のメッセージを開けた。
 ――会長と宮野副会長のことで何か聞いてるなら情報を提供すること。
「……………………」
 ……思わず絶句、だ。

「……あぁ」
 なんだ、どこから何をどう解釈すればいいんだ?
「どうかした?」
「…………何でもなぃ」
「ちょっと待ってね、もうすぐ終わるから」
「おー……」
 光の声に最低限の返事を返し、ソファに沈み込む。
 さすが金持ち学校、保健室のソファさえふかふかだ。

「………………」
 会長と宮野副会長のことで何か。
 何かっていやあ、アレしか思い浮かばないわけで。
「……はぁ」
 内容は分からないけど二人の間に何かあった、と篠原が思った。それってつまり、高嶺と宮野先輩の様子が、生徒会メンバーとかじゃない篠原にも分かるくらい、いつもと違ったんだろう。……たぶん。
 で、俺に聞いてきたってことは、たぶん一通り調べても何も分からなかったに違いない。俺に高嶺のことで何か質問するなんて、大いなる妥協の結果としか思えないし。
 しかも情報を提供すること、って言い方がまた、なんつーか、質問というか命令というか……、単にルールを伝えたって感じだ。
 人にモノ聞くときの言葉じゃねえし。
 せめて教えてほしい、くらい書けっつーの。
「…………」
 さあ、って返しとけばいいか。二文字だ、二文字。それで充分だ、こんな失礼なメッセージ。

「ごめんなっちゃんお待たせー」
 ベッドの仕切りがシャーっと開いて、光がバーンと登場してくる。
「……光って癒し系だなぁ」
「え、え、え? 何の話?」
「いや、こっちの話」
 とりあえず返信は時間おいてからでいいやと携帯を閉じる。
「あと5分だ、とりあえず間に合いそうだな」
「うん、あの先生いつもチャイムの前に解散してくれるから助かるんだー」
「へー、いつもなんだ。気が利く先生もいるのな」
 毎回保健室で着替える俺からすれば有りがたい。
 今日は確か保健室に着いてから授業終了のチャイムが鳴った気がする。

「丸山先生は?」
「職員室行くって。すぐ戻るから鍵閉めなくて大丈夫ってさ」
「そうなんだ」
 携帯をポケットにしまい、保健室を後にして廊下を歩くと案の定、何人かからちらちらと視線を投げかけられてるのに気付く。
「……やっぱ、なっちゃん一人で行かせなくてよかった」
「別に平気だって」
「駄目だって。相手が一人だと思ったら無茶する奴なんていっぱいいるんだからね。僕だって何回か危なかったことあるし」
「……やっぱマジか」
 ストーカーの話とか色々聞いてたからなんとなく分かってたけど、本人から聞くとやっぱそうなんだって気にもなる。
「そうそう。会長と全く関係ない僕でさえ危ない目に遭うことあるのに、今のなっちゃんは駄目だって」
 光は真剣に諭して聞かせようとしてるみたいだ。

「…………それ、俺とは違う意味の危ない目じゃないか?」
「どういう意味?」
「……単にリンチされる危険か、押し倒される危険かってこと」
「なっちゃんだって同じだよ」
「俺の評価、根暗メガネだぜ?」
「リンチの最中も顔隠しとおせるの? 人をリンチするような下衆はね、なっちゃんの顔見たら確実に押し倒す方に切り替えるよ」
「………………」
 あの、色々ツッコミ入れたいんですが……。
「……下衆、か。うん、そうだな」
 ひ、光の口からそういう類の言葉が出るとは思わなかった……。
 ……まあ、今の話は対象者がいないから出てきたんだろうけど。
「あ、僕だって言う時はちゃんと言うからね。普段ぴいぴい騒いでるからって、それだけだと思わないでよー?」
「ぴ、ぴいぴい……」
 うわ、なんか面白すぎる。光のその微妙な悪態。

「何笑ってんのさっ」
 そんな風に言いながら拗ねたように光が口を尖らせた時だった。
「…………あっ」
「やあ! 安達くんじゃないかぁ、偶然だねこんなとこでー」
 後ろからかかった声に振り返ると、あんまりお会いしたくない人物がにこにこ顔で歩いてくるのが見えた。
 ……郷田と、その連れだ。……名前忘れた。木場だか木田だか。
「いや、あの、えっと」
 しどろもどろな光を見てるとマジで申し訳なくなってくる。
 そろそろ、歌ってたのは俺だって言った方が本気で何とかなりそうな気がしてきた。

「もしかして体育だったの? 今から帰るとこ?」
「え、えっと……」
「ねえ、どうしたの? ここんとこメールしても返してくれなくなったね?」
「わ! えとっ!」
「…………」
 突然慌てたように声を出した光と、郷田の言った言葉。
「……光」
「いや、えっと、あのねっ」
 総合判断すると、何となく事情が分かった気がした。