97<猛省>

「ななな、何だよ言ったら駄目な言葉とか!」
「すぐ分かる」
「ちょおっ」
 のしかかってきた高嶺に押さえ込まれて、またソファの上から動けなくなる。
「あぁぁああ」
 俺はまた要らん地雷を踏んだらしい。
 あれか。
 そういや高嶺に可愛いワードは逆効果だったような気が……。

「そんなんじゃないって、なら何で引いてたんだよ?」
「ぁ、え?」
 何をするつもりなのかと身構えていたら高嶺は至近距離まで顔を近付けて尋ねてくる。
「電話で。さっき」
「あ、あぁー、いや」
 正直には答えられないよな。
「………ーっと、……あー、だってお前……すげー興奮して……でけー声で喋ってくんだもんよ……。近くにダチいたし……、声もれてて、高嶺だって丸分かりだったし、まだ付き合ってるって言えてねぇし……なんかほら……な?」
 都合がいいように解釈してくれることを意図して、な、の一言に色々含ませてみる。
 高嶺は、無言で俺の首筋に顔を埋めてきた。

「ぅ……なに」
「まだ覚悟できねーのか」
「う……ぁ、だって……」
「しょうがない奴だな」
「……ごめ」
 なんで俺は喉とか舐められながら謝ってんだ?
「カミングアウトは俺がいる時の方がいいな」
「は……なん、で」
「どうやって言うのか見たい」
「うわ」
「可愛いだろーなあ?」
「てめっ」
「顔とか真っ赤にして? 恥ずかしがりながらボソッっと言ったり?」
「な、何想像してんだてめぇはっ!」

 手も一緒にツッコミ入れてやろうと思ったら読まれてたらしく、あっさり掴まれて押さえ込まれる。
 うわヤバイと思った時には口に違和感があった。
 ……指だ。高嶺の。
「……ふぇべ」
「ん?」
 高嶺の長い指が頬の方に移動して、舌が自由になる。
「……すけべ」
「…………お前誘うの上手いよな」
「ぁ?」
 何!? 今のって誘い文句!?
「ちょっ、何をどーしてスケベが誘いもんぅいあぅう」
 最後まで言い切る前に高嶺は再び俺の舌を指で制しにかかってくる。
「ひょっぉふぁえぇ」
 ちょっと待てが酷い有様だ。

「お前って部屋着はいつもスウェットなのか? もしかして脱がせってアピール?」
「ふあっ」
 ンなまさか!!
「ベルトきっちりな制服もイイけど、こういう無防備なのもいいよな」
「ぉまへふぁっ、はんでもぁいかっ」
「ちょ、可愛いから喋んな」
「おぁわぅええ」
 最後のは自分でもなんて言いたかったのか不明だ。
 叫びたかったんだ。
 ツッコミ入れるのに疲れてきたから。

「っふッ」
 けどその一瞬の隙にスウェットが下着ごとずり下ろされている。
「ふあえぉーっ!」
 やめろぐらい言わせろ馬鹿!!
「あんま喋るとよだれ落ちるって」
「うあっ」
 人の口に指突っ込んで好き勝手しといて何だその言い草!
 うわっ! しかも口元を舐めるな阿呆!!
「よし、じゃあ、やっぱ可愛らしく啼いてもらおう」
「うっわお前やっぱ根に持って……!」
 そこまで普通に叫んで、指が口の中から消えてることに気付く。

「うわぁあ馬鹿待てやめっ」
 何の心の準備も身構えもしていなかった所に入り込んでくる冷たいもの。
 何が冷たいって、そりゃ直前まで人の口の中に入ってた指は濡れてて冷たいだろう!
「あーっ、もう嫌だ! 頭が変だ!」
 気を紛らわそうと、些細なことにまで頭の中でツッコミを入れてる自分が嫌だ。ムードの欠片もねえ。
「いやっ、ムードとかっ、いらねえっ」
「何だよ、ムードが欲しいのか? ホントに可愛いこと言うんだな」
「ちがっ、俺おかしいんだって!」
「なんで?」
「なんでってなんで訊くんだよ!?」
 お前が俺の気分なんかお構いなしに盛ってくるからだっつーの!

「おかしいって、俺のせいなのか?」
「せい!」
「……望むところだ。もっとおかしくさせてやる」
「えっ、あ、ぅわっア」
 こういう時の高嶺はなんでもエロい方向に拾っていくから手に負えない。
「ぁ、ちょ、ぅ、うっ」
「……ココ、だろ?」
「んっ、ぁ、ちっ、が」
「嘘つけ、ビクビクしてる」
「ひ、っくぁ、ァ」
 強く引っかかれて体が跳ねた。

「……ぅくっ、……い、ぃれな……って、いっ……た……!」
「指くらいじゃ明日に支障は出ない。大丈夫だ」
「だっ」
 大丈夫だ、って! 俺の状態のドコを見てそう言い切ってくれてるワケですか!?
「ンっ、う、ぅ、う、ぅアっ」
「顔、凄ぇ赤い。気持ちいい? すっげ感じてるな?」
「う、ぅううっ」
 頷けるわけがなくて必死で顔を振る。
 そしたら高嶺はふーんと澄まし声で笑った。
「そんなに気持ちいいわけじゃない? まだ足りないか。そうか」
「ンぁッ! アッ、あぁっ」
 動きを強くされて、解答を間違えたことに遅ればせながら気付いた。

「ぃやっ、だっ、あッ! むりっ、あっ、嘘っ! なく、なぃっ!」
 漏れてしまう声の合間に必死に訂正を試みる。
「嘘? 何が?」
「ごめっ、まじ……っ、たぃむっ」
「なに、結局どういうことだよ」
 けど高嶺は意地悪な問いを返すばかりで動きを弱める気配がない。
「ぃっ、アっ、ぉにっ! ア、……っ」
「嘘って何の話?」
「や、も……っ、いいっ! じゅぅぶんっ」
「何がよ?」
 いやホントに充分すぎるから! 意地悪も……!

「うぁあ」
「教えて?」
「いっ、いぃから……! き、気持ちぃいからっ! ぅあっ、ア」
「気持ちいいのか。そうか良かった」
「ちがっ!」
 鬼だ! 畜生だ! 鬼畜って言うんだ! こういうの!
「よすぎっ、すぎる……っ! あっ、駄目っ、だっ、きもちっ、すぎ! やめっ」
「うっわ……。可愛すぎるしちょっと」
「ぅいっ!」
 とんでもないことを口走ったというのに、高嶺は期待と全く逆のことをしてくれて、俺の頭は真っ白になった。
「ぅあア、あっ、やめ、やめっ、いアあっ、ぃくっ、っく! アッ!!」
 もう何もかもが止められなくなって、意識が遠のきかける。
「…………ぁ……ぁあ……」
 声なのか息なのか分からない音が漏れて、あぁとりあえず解放されたんだなと考えたときだった。

 ぴろりろん、と微妙に間の抜けた音が耳を掠めて疑問符が頭に浮かんだ。
「……な、んの、音……」
 力の入らない体を懸命に起こそうと試みる。
「登録したってさ」
「…………なに、を」
 嫌な考えが頭を過ぎった。
「何って、動画」
「……何のっ」
 おいおいおいおいおいっ。
「お前の可愛いお顔と声。証拠映像、見るか?」
「………………」
「これ見たらこの俺に可愛いとか言った自分を猛省するぞ?」
「……………………っかみねえええっ!!!」
 体に力さえ入ったらぶん殴ってやるのにという恨みを込めて名前を呼んだら、高嶺は慌てるどころか楽しそうに笑いやがって、俺は投げやりな気分にしかなれなかった。